機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
別に、騙していたって訳じゃない。
ただ、語ってこなかったことがある。
それは型式番号、いわゆる型番についてのこと。
知ってるかもしれないが、
モビルスーツ・モビルアーマーは型番の最初の3、4字程度のアルファベットに、
その機体が持つ役割が説明されている。
例えば、《ジズ》、《ジ・ゾウム》などの『ZGMF』なら、
『Zero - Gravity Maneuver Fighter(無重力下用機動戦闘機)』の略で。
主に宇宙空間での戦闘を想定していることが窺える。
……まあ、必ずしも当てはまっているとは言わないが。
これが海上、陸上用になるとまた変わる訳で。
アルゴルがよく似ていた《ザムザザー》はというと、
型式番号は『YMAF-A6BD』。
これが同時期の《ゲルズゲー》、
および後年の大型モビルアーマーにも採用された型番。
では、《アルゴル》は、というと、そうではない。
正式名称は《GAT-X303G アルゴル》。
即ち、型式番号の上ではモビルアーマーではなくモビルスーツ、
それも特異なモビルアーマー形態への可変機構を持つ、
かの《イージス》の系譜に連なるモビルスーツである。
短く見えた前足・後ろ足の正体は、モビルスーツの腕と足。
それが折り畳まれた姿であって。
……折り畳まれた腕が伸びて、カーテナの刃を掴んだのも当然。
それが元はモビルスーツの腕だったのだから。
自分の腹ぐらいなら、手を伸ばして、守れる。
問題はそこから。
イノシシの後ろ足や腰にあたると見られていた部分が、
突如ぐいっと起き上がった。
尻尾のように垂れていたから、前からは見えなかったが、
そこにヤツの頭もあった。
ツノを突き出す青虫みたいに、V字型のアンテナが突き出る。
流石に《イージス》の後継機。顔は《イージス》に似ている。
トサカのように長く伸びた頭部先端と、卵のようなシルエット。
ただ、その口部に配備された、
100mmエネルギー砲「ツォーン」を除けば。
嘔吐するように吐き出された赤いビームの光が飛んできた。
到底逃げようのない至近距離で……
危機に瀕して思い出すことは、大抵同じこと。
走馬灯ってヤツだろう。奇しくも、ザムザザーとの戦いが最初だった。
7年前にザムザザーと始めて遭遇したときだって、
物量で押されて、長時間の戦闘と相成り、
当時の俺の愛機インパルスはエネルギー切れを起こして、
フェイズシフトを失った頃、
ザムザザーのクローに足を掴まれ、海面に向けて投げ飛ばされた。
落ちていく最中に、見たのは、やはりあの景色。
妹がいて、両親がいて、俺がいて……走っていく。逃げていく。
でも間に合わない。でも助からない。
爆発と共に振り返れば、そこには両親と妹の死体。
俺にとっての、強烈な死の体験。
自分もそうなると思った。思った瞬間、何かが変わる感覚がして……
それから気付いたら動いていた。
強烈なビームをシールドで受け流しながら、
ビームサーベルを両手に握り閉め、突っ込み、
あのカニみたいな頭の真ん中に刃を差し込んでやった。
これで意外に脆く、ザムザザーはその一撃で落ちた。
あのときの感覚を、言語化することは難しい。
ただ、何か精神の奥底で小さな種が割れて、芽が出るような感覚。
アーネスト・ヘミングウェイの名作『キリマンジェロの雪』において、
死に際、男は夢を見ていた。
『狩りの途中で足を怪我した男がいた。
治療の当てのないサバンナの真ん中で、足は腐り、死神が忍び寄る。
やっと迎えに来た飛行機に男は乗り、眼下に広がる純白の世界を見る。
光り輝くそこは、雪をかぶった山の頂だ。
山の名はキリマンジャロ。男は思う。
自分が向かっているのはそこなんだと』
男は間もなく息絶えるが、
死に行く間際まで、その幻影を見続けるのである。
考えちまうね。何でそんなもん流し出すんだって。
神様なのか、仏様か、まあ、ただの脳の電気信号なのかは知らないが。
設計として親切じゃない。
……余談だが、《イージス》の語源はギリシャ神話の「アイギス」。
魔除けの力を持つとされる防具である。
盾なのか、胸当てないしは肩当てだとか、まあ色々言われるが、
一説によると、
アイギスの前面には見るものを石に力を死後も持ち続けた、
『メドゥーサの首(アルゴル)』が納められていたという。