機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「……死ねないだろ?こんなんじゃ」
口部発光の瞬間、俺は剣を離し、思いきり仰(の)け反った。
相手の射角調整は間に合わなかった。
ピンチの後には~なんて言う訳じゃないが、
俺は仰け反った状態から更に1歩引き下がると、
頭部のビームガンでけしかけた。
敵も回避に動いたが、撃ち終わり、動くまでに多少のブランクがある。
カーテナを掴んでいた方の腕が犠牲となった。
予想以上に大きな煙が巻き上がる。
『ウソだろ?ロビーちゃんが……』
多分、敵だろう。そんな声がして。
『やったじゃないっすか!』
なんて声を上げるアレハンドロがいたりして。
しかし、煙が薄れ始めると共に、そのシルエットが顕になる。
始めはイノシシが2本足で立ち上がり、
背中を向けて前足を広げているような、そんなシルエットだった。
そのまま、煙が晴れる前後に、振り返ったかと思えば、
変形が始まった。
前足と揶揄されるばかりの短い腕の真ん中に1本線が入り、
そこを境に2つに分かれて、離れていった方が円を描いて伸び、
やがて長い1本の腕へと転じた。
ただ、違うのは上下が逆転している点であろう。
背中が胸や腹に、腹が背中に転じていく。
屈むように肩をすぼめ、下を向いたような姿勢になる頃、
残された片腕の、前足のときには掌だった肘が、
あの牙を覗かせる。
牙……最早、光の剣と呼んだ方が正しかろう。
肘から剥き出しになった骨みたいに、そこに三日月型の刃がある。
あんなもので突き刺されたのだ、
そりゃ、あの《ジ・ゾウム》も動きを止める。
『殺す!殺したるゥゥ!』
煙の奥で炎がついた。ヤツのスラスターだったのだろう。
煙は間もなく晴れて、ヤツは高速で接近してきた。
こちらは横に動く。目標はカーテナ。
今、《アルゴル》の背後の空間に浮いている。
右斜め前という進路を進みながら、カーテナを目指す。およそ10秒。
1秒後、ツォーンの砲撃が飛んできた。
2秒後、これを避けて、
3秒後、モビィ・ディックを起動させる。
4秒後、立ち止まらず、ろくに狙いもせずに砲撃。命中せず。
5秒後、ツォーンの第2射。今度は肩口の砲台からも放たれる。
6秒後、敵の砲撃を回避したものの、数発被弾。右肩を損傷。
7秒後、威力を抑えて、かつ足も止めずにガトリング掃射。
8秒後、《アルゴル》の進路変更。
9秒後、ガトリングの数発が被弾。《アルゴル》の右足首を破壊。
……迎えた10秒後、俺の手にはカーテナが握られていた。
先程の右肩の被弾とガトリング掃射のせいで、
右腕の調子が悪く、やむなく左手のみで掴み、構える。
《アルゴル》が進んでくる。前面にはリフレクターを展開しながら。
撃ちかけるツォーンの砲撃をダラリと垂れた右腕のシールドが耐え、
間合いが詰まっていく。
肩の上へと、刃を振り上げた。
片腕だけとはいえ、
これから豪速球を投げるピッチャーのように大きく振りかぶって。
敵を見据える。
近付いて来るにつれて、シールドの防衛能力にも限界が。
何より、やや斜めから放ってきた敵の砲火に、
肩が後ろへと押し出される。
それでも、どうにかギリギリまで耐えた。
強烈なツォーンのエネルギー波が途切れる、そのときまで。
そうして途切れる瞬間に、
その勢いをも使い、力の限り、カーテナを振り下ろした。
敵も例の剣で応戦に出たが、もう遅い。
カーテナは、その先端部を相手の剣のビームに切り落とされつつも、
ビームの刃が敵の腹部に深く食い込んだのだから。
正直、勝利を確信していた。
深く突き刺さった腹部。
その後、爆発が起こらないところを見て、
念のため、ビームガンで頭部も破壊しておいた。
しかし、それでも……
『……んな』
って声がノイズの波に紛れるように聞こえてきて。
『こんなんでなぁ…………終われへんわァァ!ボケェ!カスゥ!』
声から分かるが、ロビーとかいう、敵のパイロットの台詞だ。
およそ人が変わったような彼女の叫び声と共に、
敵モビルスーツのバックパックのみが分離する。
どうやら、コクピットはそちらにあったようで。
それは《ZGMF-X11A リジェネイト》という、
ザフトのモビルスーツの時点で利用された方法であった。
だが、まあ……そんなアイデアを使ってくる敵が本当にいるとは。
「……マジに、メドゥーサみたいだ」
目玉焼きみたいな本体と、それに付随する数本のマニュピレーター。
丁度、人間の頭とそこから生える蛇の髪……
とはいえ、そこまでの抵抗に終わった。
体を放棄し、逃亡を図った、この寄生虫のごときバックパックは、
脆くも撃ち落とされたのだから。
例の、赤い《ジ・ゾウム》のビームライフルによる狙撃で。
萎(しお)れる花のように高度を下げて、
落ちていくバックパックの奥にて、彼は立っていた。
『流石ですね……義兄(にい)さん』
なんて、言いながら。