機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-04 ignited(2/7)

金槌型の小柄なうすら橙色の電灯が照らす、ほの暗い寝室に、

純白のベッドに腰を据えた、ルシア・アルメイダの姿はあった。

「……どういうことです?これは」 

ベッドの縁(へり)に置かれた彼女の青いスマートフォンが、

奇しくも部屋を覆うオレンジ色の補色ということで、

思いの外、目立って見えた。

少なくとも、ピンク色したアルメイダ自身の髪より、はるかに。

「ご約束なされたではありませんか?

私を、南米方面軍の司令官に推挙していただけると」

『あぁ……確かに約束しましたがね』

そう答える、声の主はスコルツェニー。

ヨーゼフ・スコルツェニー参謀長、その人である。

「では?」

指と指を合わせて、右斜めに傾ける。

これに合わせて、首も同じ向きに軽く倒した。

このとき、もし彼女の前に鏡でもあったなら、

自分の顔を見て、精々顔を真っ赤にでもしただろう。

いや、面の皮の厚いアルメイダという女のことだ。

案外、平然と話を続けるかもしれない。

……随分、脱線したが、

ひとまず、バカにニヤついたアルメイダのバカ面を想像すれば、

おおよそ当たっていよう。

『申し訳ないが……「円卓会議」の決定には、私も従わざるを得ない。

仮に、それが「盟主」のご意志であっても……ね』

アルメイダの口角がゆっくりと下がる。

そこから続く、スコルツェニーの弁明を他所に、

アルメイダは電灯の下の小棚へと手を伸ばした。

『あくまでも、臨時の「会議」における決定は、

南米方面軍結成の否認と、一部方面軍の配置換え』

アルメイダは聞いているのか、いないのか。

その棚の二段目を、

袖の奥からスッと出した小さな銀色の鍵で開けると、

音もなく棚の上に鍵を置き、また音もなく引き出しを開ける。

鍵がかけられていた割には大したものは入っていない。

ただ、キューバ産の葉巻を入れた片手ぐらいの大きさの箱が2、3、

蓋はされずに並んでいた。

『そして、貴女の上司であられるヴィトー・ルカーニア司令は、

この度、オルランド・マッツィーニ司令と交代となり、

ヨーロッパ方面軍に異動となられた』

話の間、アルメイダはまるで聞こえていないといった風に、

一番手近にあった葉巻を一本抜き取る。

ここから先は、流石に音を立てずに、というのも無理な話と見て、

マイクを切る。

これでアルメイダの方の音声は、もう聞こえない。

葉巻を噛み、ポケットより出した使い捨てのライターで焙る。

そんなこと知らないスコルツェニーの話は続いて、

『これも既にお聞きのことと思うが、

プリュトン・ギドー大隊長の除隊に伴い、後任人事で、

アルメイダ中隊長を大隊長に取り立ててもらうよう、

私の方から話はつけておいた。

……勝手とは承知の上だが、

この度はそれで我慢してもらえないだろうか?』

そこまで続いた。

流石に、そのまま葉巻に火を点ける余裕はなかったアルメイダ。

マイクをオンにするが、

「……ハァ」

という溜め息だけ聞かせて、またマイクを切った。

挑発のつもりか、何か。

少なくとも、沈黙が生まれたことには違いなくて。

10秒程度、スコルツェニーの吐息だけ微かに聞こえてくる中、

アルメイダは葉巻の先に火を点す。

『では……こうしてはどうだろう?』

アルメイダの表情が少し変わる。

ほんの僅かではあるが、苦々しい顔がいくらかマシになった。

『……君には、ヨーロッパ方面軍に言ってもらう』

相手に聞こえないのをいいことに、

「フン」

と呆れた調子に鼻を鳴らすアルメイダ。対して、

『ここだけの、話になりますが……』

そう語り出すスコルツェニー。

『……誰にも、聞かれてはなりませんよ?』

アルメイダはスピーカーを切り、スマートフォンを耳に当てた。

そこから数秒後、彼女の表情は徐々に解れていく……




「……了解しました。はい。
参謀長のおっしゃる通りで。ええ。
必ずや、ご期待に添える活躍を遂げてご覧に入れます。ええ。
失礼します」
そこまで言うと、通話を終了させた。通話時間53分。
……と、同時に、録音時間もまた53分であった。
「……さてと」
再生すると、確かに音声は入っていた。
『……どういうことです?これは。
ご約束なされたではありませんか?
私を、南米方面軍の司令官に推挙していただけると』
『あぁ……確かに約束しましたがね』
『では?』
『申し訳ないが……「円卓会議」の決定には、私も従わざるを得ない。
仮に、それが「盟主」のご意志であっても……ね』
……なんて、先程の会話が再生された。
「フッ」
とほくそ笑むアルメイダだったが、
すぐに別の番号に電話をかけ始めることとなる。
「あぁ……オルランド?聞こえる?少し、話があってね……」 
声色を変えて、そう話し始める彼女の隣では、
灰皿の上でまだ長いままの葉巻が静かに煙を燻(くすぶ)らせていた。
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