機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「やめなよ……ダイ」
ヴァイデフェルトが囁くも、
「……重要なことだ」
と一蹴するダイ。
対して、ダスティンも数秒間、
要領を得ないといった風に首を傾げていたが、
そのうちに、
「それ、直接言わないよね?普通」
なんて笑った。
「……確かに」
そう同意するシージーを、ダイは睨むが。
「ダイ……と呼ばせてもらうよ?」
「ああ」
「俺が本当にスパイだったとしても、
スパイじゃない、って否定すると思うんだけど?」
ダスティンは笑う。というよりは、微笑むというべきだろうか?
嘲笑するというよりは、優しく諭すように。
「……別に疑ってはいないが」
ロダンの『考える人』よろしく、顎に手を添え、頬杖をつくダイ。
「貴方には自覚を持って欲しい、と思ってな」
ダイの顔が上を向いた。
「フレイヤ隊は……俺たちは、隊員の裏切りに遭っている」
「カオスのパイロットのこと?」
「……あぁ」
ダスティンの『カオスのパイロット』という表現に、
ヴァイデフェルトが微妙な表情を見せた。
彼女はそんな名前ではない、サムだと言いたげな……
しかし、この状況でそれを切り出せるヴァイデフェルトではなく。
「貴方には自覚を持って欲しい……
自分が疑われる立場にあることを。
その意味で、失礼は承知で言わせてもらった。
別にルカーニア司令に、その意図があるとは思わない」
「あの人がそんなまどろっこしいことするかなぁ……」
「コロニー付近に爆発物を仕掛けておくようなマネをした男だ。
ないとは言えない」
シージーもシージーで微妙な表情。
これは、平然と上官ルカーニアを侮辱するダイを戒めたい、
といった感じだろう。
気まずそうに顔を反らすのだから。
「貴方がもし……妙なマネするようなら、
俺は部隊の安全を優先して、躊躇なく殺す」
若干上から見下ろすように、ダスティンを睨むダイ。
「……2人もだ」
次いで振り返ったダイは、当然前の2人を見ていて。
「……安直に信用するな」
「ひどい言われようだね」
「事実だろうが?」
睨み返すダイに、ダスティンもここで頭を垂れた。
「部隊の安全……ねぇ」
おうむ返しに応じるシージーの表情は暗い。
ただ、もっと悲惨なのはヴァイデフェルトの方で。
本筋の会話とは裏腹に、思い出していたのは俺(副長)のことで。
先の『オバマ』征討の前半戦にて、
ヴァイデフェルトに銃を向けたのは俺だった。
引き金を引いたのは俺だった。
ダイの言葉が引っ掛かる。
部隊全体の為なら、その一部を切り捨てるというのか?
あのときの副長の判断みたいに……
そんな感傷が彼女に、
「……そんなこと考え出したら、キリがないよ」
なんて言葉を紡(つむ)がせた。
これにはさしものダイも、
「そうは言うがな……」
と言葉を濁さざるを得なかった。
シージーも口角に皺を寄せて、言葉に詰まっている。
そんな中、
「まあ……考えるのは悪いことじゃないと思うけどね」
なんて立ち上がったのはダスティンだった。
「……どうせ、君らとは当分俺は別行動になるんだ。
その辺り、皆で話し合う時間はあると思うよ。
ひとまず、30分になった。何か食べようか?」
そう、皆を見渡せば、
「だよな」
ってシージーが同意して立ち、
ヴァイデフェルトも視線を感じて立ち上がった。
ダイのみ、座りしままに右側を向いた後で、
「……それも、そうか」
なんて声を漏らしつつ、立つのだった。
つまり、ダスティンには背中を向ける構図となる。
「……だよね!」
ダイの対応を他所に笑うダスティンに、
残りの2人はまた気まずそうに顔を見合わせるのだった。
食堂のカウンターと一口に言っても、幾つかあって、
ご飯ものだったり、麺だったり、パン、
スープとか、またはジャンクフードだったりと、
ブースが分かれている。
そこでは偶然にも、ダスティンとダイが並んでいた。
ダスティンの方が先、後からダイがやってきた構図で、
寄っていくのを躊躇する様子が見られた。
それでも頼んだものが頼んだものだから、行かない訳にも行かず。
寄っていくと、ダスティンは少し笑って、
「アフリカでも頑張ってね」
なんて首を斜めにして寄せ、囁いた。
「……ん?」
ダイの返事が聞こえるか聞こえないかというタイミングでもって、
ダスティンの頼んだものが出てきた。
チキンティッカマサラ。英国風のカレーである。
「……俺はしばらく、こっちなんでね」
と、カレーをチラッと見せると、
踵を返してテーブルへ向かうダスティン。
「どういう意味だ?」
と呼びかけるダイの向かいで今、
調理台の奥から火の燃え上がるぼうっという音が聞こえてきた……