機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「……今、アフリカって言った?」
聞き返すハビエルの声に、ラグネルは平然とした様子で、
「私は、そう窺っていますが」
なんて言い放つ。
丁度、光の加減で、ラグネルの瞳は、
かけている赤縁眼鏡のガラスに遮られ、このときは見えていない。
ハビエルはというと、
「どうして、うちの隊長はそんな重要なことを連絡しないのかねぇ」
なんて呟いたが、右手で口を覆い、かつそっぽを向いてのこと。
ラグネルが微動だにしないところを見るに、
はっきりとは聞こえていないらしい。
「……いつになるか、言っていたの?参謀長は」
「3日後です」
「……はい?」
聞き返せば、ラグネルは返す言葉を失っていた。
鼻の頭を掻き、またそっぽを向くハビエル。
「……あ~あ、もう」
「何か、問題でも?」
ラグネルを見つめ返すハビエル。
「大アリよ」
溜め息と共に、下がるハビエルの顔。
気持ち、その髪も揺れて、
コアラの耳のように左右に分かれて垂れているように見える。
「うちの副長……アププリウスに呼ばれてんのよ。
5日後にならないと、帰って来ないのに」
「……確か、アスカ副長は、ホーク小隊と合流の後、
6日後に降下する予定とのことですが」
「えぇ……」
足元を向きながら呟くハビエル。
「……マジ?」
頷くラグネル。
「てことは何よ?
……副長抜きで、しかもホーク小隊の救援もないままに、
敵地のど真ん中に降りろっての?」
「現地ゲリラの協力があるとのお話でした」
「……はぁ」
後頭部、というよりは首の裏側辺りになるのだが、
まあ、その辺りを掻きながら、顔を反らしているハビエル。
少し間を置いて答える。
「部下の裏切りを食らったばかりのあたしら部隊に……
もっと信用できない協力者を宛がうとは、まあ……スゴい発想ね」
ラグネルは何も答えなかった。
……渾身の皮肉がスベったハビエルは、
エヘンエヘンと咳払いをすると、
「ひとまず報告感謝します……アナタの方から何か質問は?」
「……私の部屋はどこですか?」
「あぁ……ちょっと待ってね」
慌ててPCを開くハビエル。
この女の髪というのが、どうにも変わっており、
ササッと弄っている間際に、
空いていた左手で髪をかきあげてみれば、
触られたおおよそ中央の髪が天を向いて逆立つのだから。
「……ええとね、ひとつ聞いてもいいかしら?」
「どうぞ」
1度ラグネルの表情を確認して、また画面に向き直る。
なおラグネルは先程から微動だにしていない。
「1人部屋の方がいい?……それとも」
「……1人部屋の方がありがたいです」
「あっ、そう……んー」
唸りながら、じっと画面を見つめたかと思うと、ハビエルは、
「この部屋がさぁ……」
と話し始めるのだが、
「……ジョーン・ウェールズ先輩と、
サマンサ・スクリーチ先輩がいらっしゃったお部屋ですか?」
そう、ラグネルに先に言われてしまった。
ハビエルは間が悪いという感じで眉をひそめて苦笑いしたが、
ラグネルは、
「……構いませんよ」
と即答する。
「なら……いいんだけど」
チラチラと顔色を窺うものの、ラグネルはノーリアクション。
「ええと……それだけ?」
「はい」
「………そう。それなら下がってくれていいわ。
部屋の鍵は今、アナタのカードで開くように設定しておいたから」
一礼し、退出するラグネル。
正に直立不動。動きもどこかロボットのようであった。
ハビエルが呟く。
「……逆に大丈夫かしら、あの子」
同じ頃、病院の自動ドアが開き、アレハンドロが出てくる。
ポケットに両手を突っ込み、物憂げな表情で。
間もなく、足下が青白い大理石の石畳から、黒い砂利道に変わる。
そんなときに、1台の黒い車が彼の前に止まった。
といっても、俺のときみたいな黒塗りセンチュリーじゃなくて、
黒は黒でも車種はダイハツ・ムーヴコンテ。
ドアを開け、アレハンドロが入ろうと、中を覗けば、
その動きが止まる。
運転手が彼の方を向いて嫌味っぽく言う。
「……お疲れ。アレハンドロ」
「パーディ!」
運転手はパーディタ・ラドクリフ。
「おい、どうして……」
と言いかけ、詰まるアレハンドロの言葉。
何せ、見てしまったから。
軍服のシャツとスカートの隙間から垣間見える包帯が。
複雑そうな表情を浮かべるアレハンドロに、
パーディは肘で包帯の部分を隠すと、
「……エッチ」
なんて笑ってみせる。
「……んなんじゃ、ねぇよ」
顔を反らしながら、助手席に座るアレハンドロ。
「じゃあ、何……」
なんて言いかけるパーディの言葉は遮られた。
突然、覆い被さるように身を寄せ、荒っぽくその唇を奪った、
アレハンドロによって。