機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-04 ignited(7/7)

「……おう、俺だ」

そこはホテルの一室。

背丈以上もある大きな窓の外には、荒れ狂う暗い海が見えていた。

窓はそのまま姿見の鏡となり、

イスにだらしなく腰かけるバスローブ姿のヴィトー・ルカーニアと、

その手が握るワイングラスへと、

その語の意味するところと同じ、血のような赤い色をした、

サングリアというワインを注ぐ女性。

長い黒髪を背中まで垂らし、こちらもローブ姿という、

この彼女の名前はコマチ。

なお部屋はアロマキャンドルなんて焚いて、

その微弱な灯りでもって、辛うじて視界を維持しているばかり。

聞こえてくる物音も、

ワインの注がれるごく小さなものを除くとすれば、

他になく、そのため、

『お疲れさまです。ルカーニア司令』

という電話相手の声が優に聞こえた。

「……ご機嫌麗しゅう、参謀総長様々。

あなた様ともあろうお方が、私のごとき凡愚に、

一体、何の御用が御座いましょうか?」

なんてくさい芝居で返すルカーニアに、

『……お気付きのことと、存じますが』

と平然と返す参謀長ヨーゼフ・スコルツェニー。

「相変わらず……つまんねぇヤツだな。ジョセフゥ?」

右足を振り上げ、左足に乗せるルカーニア。

その動作とタイミングを同じくして、

スコルツェニーの息を飲む声が聞こえてくる。

『……挑発のつもりですか?』

「いいや、ただの洒落(しゃれ)だよ」

『……そうですか』

ルカーニアが笑う。

横ではワインを注ぎ終わったコマチが、ゆっくりと手を引いた。

それを確認してグラスを浴びるように、

らっぱ飲みするルカーニアには、コマチも驚いたようだが。

「……フゥゥゥ、ヒヒヒッ」

荒っぽく後ろにあった木製のテーブルにグラスを叩きつけると、

その手で口元より溢(あぶ)れた酒を拭う。

そんな下りを終えたところでスコルツェニー方から、

『よろしいか?』

との問いが投げ掛けられた。

「……ええ、どうぞ」

『データは……ご確認いただけましたでしょうか?』

「データ?……あぁ」

振り返れば、

コマチが机上にノートPCを開くと共に、

跪(ひざまず)く体勢を取っていた。

スマートフォンを耳から離して、逆の手をコマチの頭の上に置いた、

ルカーニアは、

少しばかり彼女の体を引き寄せると、掠れるような声で、

「よくやった……後で可愛がってやる」

そう囁き、赤面させる。

さてPC画面を覗いてみれば、ウィンドウ内にファイルがある。

試しにそのひとつ、《GAT-04R3》というものをクリックしてみれば、

時計回りに回転するモビルスーツの3Dモデルが表示される。

──このモビルスーツは《ウィンダム・ハイマニューバ》といい、

本来は線の細く、白と青からなるカラーリンクが特徴の、

7年前の量産機《ウィンダム》がベースである。

とはいえ、

《ブルデュエル》にて採用された増加アーマーを発展させた、

専用兵装フォルテスラ・ノヴァにより機体強度を底上げされており、

見た目ひとつ取っても、

線は太くなり、色も赤く、

そして肩に乗った《ハイザック・カスタム》由来の、

大型ビームライフルが目を引く。

そんな、大西洋連邦の量産型モビルスーツである……

「随分と、しっかりしたデータですなぁ……えぇ?」

『大西洋連邦に派遣した諜報員と、

西ユーラシア連邦の情報提供を元に作製したものです。

信憑性は高いかと』

「……《ワイルドダガー》もあらぁ」

一連の様子を少し離れたところで見ていたコマチは、

話に夢中な上官が聞き逃している、足音を先に察知し、

振り返った。

ルカーニアは気付いているのか否か、反応を見せない。

『それよりも……見ていただきたいものが』

「……これですかい?《GAT-X142》っての」

『……ハイ』

近付く足音が気になるコマチは、ドアの方へと進んでいく。

勿論、自分は足音を立てぬよう、細心の注意を払いながら。

「……こりゃ、興味深いもんでぇ」

なんて呑気言うルカーニアの傍らで、

部屋の前に達した足音が止む。

コマチの表情はひきつっているが……

そうしている内にインターホーンが鳴って、

『フレイヤ大隊より……シン・アスカです。ご挨拶に参りました』

振り返るコマチに、ルカーニアは首を振って、

開けてやれと指示を出す。

ドアの脇にあった認証装置に指を翳すと、

「……どうぞ」

とインタホーン越しに返事するコマチ。

間もなく自動ドアが開かれ、俺は部屋に入った。

右手側でローブ姿のコマチに怪訝な顔で見つめられながら。

スマートフォンをまたも離したルカーニアは、

「……いいときに来るじゃねぇか」

と笑った。このときの俺は、まさかPC画面に、

あの《デスティニー》に瓜二つのモビルスーツが3Dモデルの姿で、

映っていることなど、知る由(よし)もない。

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