機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
──その昔、「欧州事情は複雑怪奇」の名言/迷言を残した、
日本の総理大臣がいたが、
C.E.80年代初頭を生きる者にとっては、
北アフリカ事情が正に複雑怪奇と言えるだろう。
事の発端は、かのヤキン・ドゥーエ戦役にまで遡る。
プラント支持の立場にあった旧・アフリカ共同体政府は、
かの『砂漠の虎』ことアンドリュー・バルトフェルドの負傷と、
その部隊の壊滅を以てザフトが撤兵した直後、
無数の小さなコミュニティに分裂して崩壊するに至る。
それでも数年前までは、
旧・オーブ連合首長国の国家元首を生んだ現地テロ勢力、
所謂『明けの砂漠』の流れを汲む者を首班に据え、
暫定的な北アフリカ政府を形勢しつつあったが、
オーブ征伐の混乱に際して、
『ナイルの神』セベク・アガレスがエジプト地域にて蜂起。
大西洋連邦がバックにいたとも言われるアガレス軍によって、
『明けの砂漠』の勢力は各地で敗走。
その後、アフリカ統一を夢想し、大西洋連邦の介入を嫌った、
南アフリカ統一機構と、
東ユーラシア連邦発案のオーブ征伐に、
かねてより反対の意を表明し続けていた、
西ユーラシア連邦の両国が『明けの砂漠』支援に動くも、
反プラントの南アフリカと、
親プラント寄り中立派の西ユーラシアでは意見が合わず、
結局は『明けの砂漠』勢力はほぼ駆逐され、
その残存勢力は方針を巡って分裂した末、
南アフリカと西ユーラシアのそれぞれに亡命した。
しかし、『神』と呼ばれた男が、
大西洋連邦一国の方針に従う筈もなく、
協力関係を維持しつつも独立国家建設に動き始め、
アラビア半島にて汎ムスリム会議、
バルカン半島にて東ユーラシア連邦との小競り合いを始めてしまう。
そうして、オーブ征伐終了直後、
自らを「公正なる仲介者」と称するラクス・クラインは、
北アフリカの正常化を旗印にアガレス政権攻撃に動くが、
反プラントの急先鋒たる東ユーラシア連邦がこれに同意せず、
アガレスの本拠地エジプトへの南下を目指した、
ザフトの拠点ガルナハン基地を攻撃して陥落させ、
出鼻を挫かれた格好となった。
やむなくプラントはジブラルタル基地より南下して、
モロッコ地域を占領したものの、続くアルジェリア地域侵攻に際して、
コンスタンティーヌとティンドゥフという、
2つの都市の攻略に手こずっていた……
3日後。その日、スコルツェニーはアププリウスにいた。
彼がいたのは、参謀長室と銘打たれた部屋。
自動ドアが開き、1人の女性が入ってくる。
マルビナス、円卓会議にも現れた彼直属の部下である。
「……どうした?」
「フレイヤ大隊のオランへの降下を確認しました。そのご報告に」
「そうか……早かったな」
回転椅子を回し、向き直る参謀長。
「オランには、ディジー・ファンクの小隊がいたな?」
「はい」
「ファンク小隊への言伝(ことづ)ては忘れるな。
それと……コンスタンティーヌにはフォーコレ小隊とヨシゴイ小隊を、
ティンドゥフにはアデリー小隊とガル小隊を派遣しろ」
「……しかし」
多少体が後ろに引くマルビナス。声も心なしか小さくなる。
「……なんだ?」
「……コンスタンティーヌにいたウルバーノ大隊は壊滅し、
デボラ・ウルバーノ大隊長以下隊員は一名も帰還していません。
また、ティンドゥフのリュメル中隊も大損害を被り、
敗走しまして、バルドゥル・リュメル中隊長以下僅かな残存勢力が、
ウジダまで後退を……」
鼻息荒く、うなり声を上げるスコルツェニー。
少し間を置いて、こう尋ねた。
「……ジブラルタルには、現在、どの隊が駐在しているか?」
「はい。アーサー・トライン大隊、イナバ・シゲル大隊、
ポンゴ・ラドクリフ大隊が駐在していますが……管轄が」
「……まあ、わかった。ラクス様には私から掛け合っておこう」
スコルツェニーは椅子の背もたれに身を預け、
軽く頭をも乗せた。
目も閉じている。
「……フォーコレ小隊はジブラルタルにて待機、
他の3小隊はオランに向かうように。
それと……フレイヤ大隊には、やはり、
しばらくはオランで待機してもらうとしよう。
ジブラルタル駐在の各隊にも、一応、出動『要請』を出しておけ。
『命令』ではなく、『要請』を」
「……ハッ」
一礼し、翻って背を向けると、
ドアの方へと歩き出したマルビナス。
マルビナスが部屋を去った頃、
スコルツェニーは手元に置かれたアルメイダの履歴書を一瞥し、
一言、
「……見せてもらおうじゃないか、名将の采配とやらを」
そう呟くと、右手で目を覆った。