機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-05 策謀の海域(4/7)

実を言えば、こうなることは分かっていた。

いや、言い当てていたという方が正確だろうか。

時計の針を巻き戻して、 

ヴィトー・ルカーニアのいた、あのホテルを覗いてみるとしよう。

なお、スコルツェニーの電話はこの頃にはもう終わっていた。

「交渉なんてやろうったってよォ……

んなモン、上手く行く訳がねぇんだよ」

なんて顔を真っ赤にしてゲラゲラ笑うと、

コップの底を何度もテーブルに叩きつけるルカーニアの姿。

試しにコマチの方を見てみたが、

目を伏せ、何ら反応を示す様子はない。

「……セベク・アガレスがプラントと交渉なんてよぉ。ンクッ」

「お詳しいんですね?『ナイルの神』とやらに」

「詳しいィ~?」

前屈みになるルカーニア。顔は下向いて見えない。

「……知らん方がおかしいだろう?」

急に声のトーンが変わって。枯れた声でルカーニアがそう言う。

「神様と呼ばれる前の、フッ、

ただの航空機バカだった時代のヤツも含めて、よぉーくな」

顔は見ていないが、

話の間際にクイッと上がる口角と表情が目に浮かぶようだった。

「……ヤツは天才だったよ。昔から」

「天才?」

「あぁ……天才だった」

グラスを握る手が、

それは人が息絶え、力を失う様を彷彿とさせるような、

脱力と共にグラスより離れて、テーブルの奥へと消えていった。

「……まあ、そんな思い出話なんかしたって、意味はねぇが」

ウウッとうなり声を上げたかと思うと、

背もたれに体を預けて上体を起こし、

と同時に両足をも振り上げて、荒っぽくテーブルを蹴り飛ばす。

不自然に右半分だけ前に突き出るテーブルと、

反動により後方へと押し出されるルカーニアの回転イス。

「オマエは……何を相手にしているか、気付いているんだろォ?」

同意はしなかった。

「てめぇ……言ったじゃねぇか。

傭兵部隊『ネイキッド・アームズ』。

まあ、傭兵とは言いながら、

ご存知、ロゴスの盟主グレース・イスラフィールの私兵だ。

……おい、まさか?

ロゴスなら7年前に滅んだハズだなんて、バカ言わねぇだろうなぁ?

少し考えりゃ分かるだろう?何で摘発できたんだ?

……簡単な理屈だ。ヤツは組んでやがった。デュランダルの野郎とな」

「やっぱり……そうだったんですね。通りで……」

「……ほぅ?」

ルカーニアは笑っている。

「《デスティニー》のデータと……月面にあった機体が消えていた。

機体の方はあの混乱の中で、誰かが奪ったのだろうけども……

データを盗むとしたら……」

「……イスラフィールはタヌキだ。

スパイの一人二人、そりゃデュランダルの側に置いていただろうぜ。

現に、こんなモンが……」

ルカーニアがそう言うと、動いたのはコマチ。

足早にルカーニアの元まで歩み寄ると、

彼のノートPCを一度閉じ、ゆっくりと小脇に抱えて、

更にそそくさと俺の方まで駆け寄ってきた。

俺の前でこれを開き、見せると同時、

「……『ナイルの神』の指揮下にて確認された」

なんて言うのはルカーニア。

対して、俺は……言葉を失った。

何せ、画面は先程から、変わっていないのだから。

《GAT-X142 マッド》。

赤いボディと、アクセントとして配されたブラックという、

禍々(まがまが)しいカラーリンクをしたソイツの顔は、

悪魔の角のごとく屈折したV字のアンテナといい、

目付きといい、よく似ていた。

血の涙を流しているような、目の下のY字を描くデザインも、

ギリシャ文字のͲ(サンピ)とϡ(サンピ)を組み合わせたような、

黒きアイシャドウとして残っているし。

口元から膝小僧の辺りまで、ボロ切れのようなマントに隠れ、

見えていない箇所もあるが、

たまたま露出していた右腕には、

パルマフィオキーナの後続モデルが配備されたとおぼしき、

不自然な凹みが確認できた。

翼も《デスティニー》そのままで……

「よく覚えときな……

俺たちが戦っているのは、『デュランダルの遺産』だってことをよ」




さぁ、時計の針を戻して。
オラン県オラン市オラン・エス・セニア空港は、
本来なら航空機が居並ぶ飛行場に、
今日はモビルスーツが列を成す蟻の群れのように立ち並ぶ。
一目では数え切れぬ程の《ウィンダム》、《ワイルドダガー》ら、
雑兵の先頭に立っていたのが、ソイツだった。
「……レェ・アモン、《マッド》、出る」
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