機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-06 禁断の力(1/7)

ソイツは、上空数百メートル地点、

足下に広がる街を見下ろすように静止すると、

持ち前のマントをマフラーのごとく棚引かせながら、

徐々に高度を下げていった。

落ちる、というよりは階段か坂を緩やかに降りていくみたいで。

《ケトゥ》に遠距離の敵を射抜く道具はない。

慌てて、海岸線沿いを飛んでいた《ジズ》の群れが前進し、

砲撃を飛ばすが、当たるどころか掠りもしない。

いかに緩やかに見えようと、

20m前後もあるモビルスーツの身体が地上に達するまでに、

そう長い時間はかからず。

地上付近も付近、パラシュートよろしく膨れた彼のマントが、

丁度針で刺された風船のように萎れるより少し前、

彼の足はアスファルトを踏んでいた。

まるで散歩といった調子で、

高姿勢を維持しつつ、道を真っ直ぐに進み出した彼を、

阻むものはなく。

また僅かにマントを揺らしながら、海の方へと歩を進めるばかり。

そのうちに、誰かが気付いた。

この赤きモビルスーツ──《マッド》は敵なのだと。

彼の進む先、右手側に現れるビルの傍らにて、

1機の《ケトゥ》が狙っている。

はっきり見えはしないが、

やはり陽炎となって空間を歪ませているから、

よく見れば分かる。獲物を前に舌舐めずりする獣の姿が。

今、見ておけとばかりに、後ろを振り向いた。

そこにいたのは、全身傷だらけにして横たわる《ケトゥ》。

他ならぬ、ハツメの機体である。

さぁ、足音は近付いてきている。

音を立てぬよう、ゆっくり正面に向き直った陽炎。

もう少し、もう少し……

涎が垂れてしまうようだった。

首はもう伸びている。ビルの影より溢(あぶ)れぬ程度には。

来い、来い……

今だ!

と言えど、別に飛びかかりはしない。

ゆっくりと首をもう一段階伸ばすだけのことで。

首を鞭のようにしならせて、一発横っ腹に見舞って、

体勢を崩したら、そのままビームの槍で貫けばいい。

それで終わり。それで勝ち。

圧倒的優位。圧倒的勝機。圧倒的成果……

捕らぬ狸の名句よろしく、

彼は絶対的勝利を確信して、首を縦に振ったことだろう。

そう、それが……この相手でなかったならば。

「……アイ?」

ハツメの呼び掛けに、当人は返す言葉を失っていた。

無理もあるまい。

勝てると思った相手。餌だと信じた敵に、

事もあろうにその細首を切り落とされていたのだから。

ハツメには、何が起きたのか、最初は分からなかった。

ドンと大地を揺らす物音を聞いて、

機体の目で確認すれば、

そこにはキリンに似せんとばかりに伸びきった《ケトゥ》の首先が、

丁度ハツメの方を見るように落ちていたのだ。

色も透明から灰色へと変わっていた上に、

ビームを形成せんと開かれた口部が、

驚きからあんぐりと口を開けているみたいだった。

『何で……動けてんだよぉぉぉ!』

アイとやらは、叫んでいた。震えていた。

ミラージュコロイドを解除、フェイズシフト装甲を起動すると、

威嚇(いかく)するカマキリみたく、鎌になった前足を振り上げたが、

それは、正しく蟷螂(とうろう)の斧。

意味などはない。勿論、力も。

それでも、厳密には愚策ではなかったのだ。

《ケトゥ》のビームシールドは、腹部と背面とに2ヶ所あって、

アイは腹部の方にシールドを展開させようとしていたのだから。

判断に誤りはなかった。

ただ、単純に無理だったのだ。単純に速かった。

シールドが形成されるよりも、

《マッド》の刃が無慈悲にも《ケトゥ》の腹部を刺し貫く方が。

「……アッ」

アイと、叫びたかったのだろう。

しかし、恐怖がそれ以上の彼女の発声を妨げた。

アイの《ケトゥ》が巻き起こさせた爆風をものともせずに、

《マッド》は前に足を踏み出していたから。

風に吹かれて転がる例の首が、

今にも横たわるハツメの《ケトゥ》の右足に当たらんとした瞬間に、

《マッド》の右足がこれを容赦なく踏みつけた。

恐らくは残骸が飛び散って傷つけたのだろう。

マントに穴が空いていた。小さな穴がいくつも。

問題はその最上部に空いた穴から、

丁度口角を横に広げて笑ったように見える口部が顕になっていた……

「……ぎゃあああああああああ!」

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