機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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──ハツメ・フクダ。オーブ人。
先のオーブ征伐にて難民となり、プラントまで逃れてきた一人。
同時期、難民対策のひとつとして、
ヨーゼフ・スコルツェニー参謀総長が外国人部隊の創設を提案。
円卓会議にて僅差により創設が可決したものの、
反対派の意見も根強い為に、
スコルツェニー自身がその責任を負うこととなった。
こうしてスコルツェニーが募集した新部隊に、
22歳とやや高齢ながら、入隊を決めたのが彼女である。
役に就いてから、もう1年になる。最初はいい商売だった。
無重力となれば、
体が軽くなって作業いくらか捗(はかど)ったような気分がして。
しかも、毎日朝早くに起きて、
試しにモビルスーツが動くか確認して、
あとは試し撃ちしたり、
ゲームのようなモビルスーツのシュミレーションをやったりと。
頭を使う場面などはほとんどなく、
毎日同じ業務をこなせばいいだけだった。
問題はここ2、3ヶ月のことで。
突然、よく知らないジブラルタルなる孤島に飛ばされると、
久しぶりの重力は何やら荷を背負うがごとく苦行となった上に、
緊迫した国境付近、
北や西からは大西洋連邦、東からは東ユーラシア連邦、
南には例の『ナイルの神』の勢力に脅かされるイベリア半島の末端。
日々、緊迫した状況が続いており、夜もゆっくりは眠れない始末。
それでも、アーモリー・ワンの騒動のときには、
プラントにいなくて助かったと思ったものだ。
戦いもすぐに終わったのだ。
きっと本国の復興に充てられて、
スコルツェニーは隊を呼び戻してくれるだろう、
なんて淡い期待もあったりしたが。


PHASE-06 禁断の力(2/7)

結局のところ、『オバマ』出征の強行に伴い、

かえって北西の危機は増すばかり。

何時戦いになるかと身構えた。

それでもジブラルタルなら防衛の方法はいくらもあると、

少しは安心していたものが、

この度、オランまで行けとの命令が下る。

ジブラルタルはどうなるのだ?大体、オランってのはどこ?

文句を言いだしゃキリないが、

それでも《ケトゥ》の性能ならば……

とアテにしたとて意味はなく。

《マッド》の前に希望は脆くも踏みにじられた。

踏み込んだ右足が深くアイのものだった《ケトゥ》の首を潰しつつ、

前へと進み出でる。

「……嫌、嫌ッ!嫌ァァァッ!!」

ハツメの髪は、そう長いものではない。

首の後ろで束ねられてもいる。

だのに、力強く首を左右に振ったものだから、

後頭部のゴムの隙間より、

黒い髪にメッシュとして入れたブロンドが抜け出て、

振るに従い、大きく揺れる。

「嫌よ……どうして、私が!私が何したってのよ!

お金に困ってたから……

稼げるって聞いたから、この仕事に就いただけなのに。

私は被害者。こんな目に遭うような、悪いことなんてしてない!

もう戦闘不能じゃん?殺す必要なんてないじゃん?

あっち言ってよ!あっち言ってェェ!!」

目尻に雫(しずく)ほどの涙の粒が溜まっていく。

「お願いよぉぉぉ!」

震える彼女が肩をすぼめて目を閉じれば、

そこから4、5秒。

最期を悟って目を閉じ、首を折り畳んだハツメ。

「……お願い」

そう言う。鼻が微かに震える程に、小さな声で、結んだ口で。

……さて、そこから1秒過ぎて。

えらく大きく聞こえる心臓の鼓動と、すっかり乱れた自身の息に、

ハツメの瞼(まぶた)がゆっくり上がる。

黒き瞳がヤモリかトカゲかのように素早く動くと、

画面正面に映る《マッド》の姿は、

何故だか自身に背を向けていた。

先程に見た傷だらけの前と違い、

マントの背中側には傷のひとつもない。

次に背中越しで、刃が見えた。

先程はアイを討ち取った、幅広の大剣である。

目前には最初は何もないように見えたが、よく見れば違う。

やはりいるのだ、《ケトゥ》が。

今度は一刀両断とばかりに、顔の真ん中から上半身の辺りまで、

深々と切り裂いた。

透明のボディがグレー一色に戻り、爆発四散。

それから、《マッド》の剣は、

これがまるでジャックナイフのように折り畳まれて、

シールドみたく右腕は肘の部分に収まって、

その手がマントの奥へと隠された。

「……はぁ、はぁ、はぁ」

目の焦点はぶれ、額からは汗、

髪が濡れた紙のように顔に張り付いている。

どうやら、見逃されたらしい。

またも強烈な風が流れたが、

その奥で、足音が静かに遠退いていくのを聞いた。

「……はあッ」

下を向いたハツメ。

ビルの影になって消えていく間際、1度だけ、

振り返った《マッド》には、はたして気付くことはなかったという。

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