機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
いや、既にやれる者はやった後だったというべきだろう。
先程は傷のひとつもないのをハツメに確認された、
マントの裏面が、こちらはこちらで穴だらけと化す頃には、
道に無様にも散った《ケトゥ》の首がいくつも転がっていた。
そのうちに、彼の足がアスファルトの舗装部分を越えて、
街路樹の縁にかかったタイミングでもって、
『………うおおお!!』
などという叫び声を上げながら、1機の《ジズ》が急降下。
前面にビームシールドを展開して身を守りつつ、
ビーム砲パルジファルをやたらめたらに撃ち込んでくる。
対して《マッド》は避けるという素振りは見せなかった。
第一射目が街路樹を焼き払う一方にて、
《マッド》はまたアスファルトの大地に踏み込み、
何事もないように歩を進めていくばかり。
第二射、第三射とて同様。
『何でだよ!この野郎ッ!』
なんて息巻いて、ビームサーベルを伸ばして、
斬りつけんと前に出た。出てしまった。
考えなかったのだろうか?
同じ間合いで、敵も攻撃してくる可能性を。
自身の左腰に手をかけた《マッド》の右腕が、
日本刀とおぼしき、か細い柄に手をかけ、
抜いたのは、それから約1秒後。
2機のモビルスーツの間は、居合いにて刃が当たる程度である。
抜かれた刀にはビームの刃はついていない。
フェイズシフト装甲のご時世にそんなものと……侮ったかもしれぬ。
しかし、結果は、
形成されたビームの刃を一瞬切断したかと思うと、
乱れた光の線が1本に戻って、マントの端にでも触れる間に、
刃は《ジズ》の頭部に突き刺さっており、
あとは重力が味方してくれる。
降りかかる勢いに任せて、頭部にズブズブと刺さっていく刃が、
やがてはその頭部を綺麗に両断していた。
適当なところで手を離した《マッド》は、
また何事もないように前進を続けるだけで。
そのうち、同時攻撃ならばあるいは……と、
ミラージュコロイドを捨てて四方より計4機の《ジズ》、
そして2機の《ジズ》が一斉に攻撃を仕掛けたが……
四方はおろか、上からもビームが雨霰と降り注ぐ中、
《マッド》は歩くだけ。進むだけ。
重心がぶれるような素振りさえなく、ただ真っ直ぐに進むだけ。
何も変わらない。姿勢はおろか歩く方角も、歩幅も、歩き方も。
ただ、進路に立つ《ケトゥ》の首を、
山道にて邪魔になる枝木の先を軽く折る程度の所作で、
例のジャックナイフですれ違い様に切り落とした。
そのまま、カッターナイフを使うみたいに、
大剣を進める歩に合わせて真っ直ぐに押し出していき、
右前足の付け根から脇腹、そして右後ろ足の付け根へと、
一筋の切り傷を作った。
そうなれば、《ケトゥ》はただ道を塞ぐ形で右を向いて倒れるだけ。
《マッド》を傷つけるハズだった残り3機の《ケトゥ》は、
一瞬、何が起こったのか分からないような様子を見せたが、
すぐに離れていく敵の後ろ側に襲いかかる。
残りの《ジズ》2機は降下して、
砲撃を見舞いつつ、《マッド》の前に回らんとする。
さて、《マッド》自身はというと……
《ジズ》の砲撃は、
敵の左足の傍らにあったアスファルトを焼いた。
爆風が敵・味方の視界を遮る中で、
なおも怯まず3機の《ケトゥ》が飛び付く。
だが、煙を抜いて1機目が現れたときには、
振り返った《マッド》は、その手を膝の上に置いており、
バレエのワンシーンのごとく旋回しながらナイフで首から切除。
同時に《マッド》を襲おうとした、もう1機の《ジズ》の砲撃は、
左足の甲で先程の《ケトゥ》を蹴り上げ、これを盾にした。
哀れこの《ケトゥ》は味方の砲弾に焼かれて消滅する。
2機目と3機目は、ほぼ同時のタイミングで襲いかかるが、
返す刀に逆回りされて、振りかざされた《マッド》の大剣に、
やや前に出た2機目の首の付け根と、
3機目の首のほぼ中央部とをそれぞれ両断した。
特に2機目は剣先がコクピットまで達したらしく、
そのまま爆発炎上。
なお、この間、2機の《ジズ》は煙に遮られ、
《マッド》本体はほぼ視認できない状態であった。
次には煙の中から小さな手裏剣状のビームブーメランが飛び出て、
この2機を攻撃する。
片方は回避に成功したが、
もう片方は砲撃を加える為に近付いていたのが仇となり、敗死。
そのまま煙の中から姿を出した《マッド》は、
その手にビームライフルを握っていて。
《ジズ》は砲撃を試みるが、
それより先に振り上げた《マッド》の右腕がライフルを放つ方が早く、
この《ジズ》までも撃ち殺されてしまった。
そのまま、ここに至るまでの経緯を忘れたように、3歩とか4歩とか、
スキップ調に歩いていく。
勿論、進路を妨げるように砲撃は続く。
もう随分、前に出たところだ。
目前には《ジ・ズクト》の群れも見える。
ただ、その《ジ・ズクト》とて、爆撃する《ジズ》とて、
遠方から撃ち込んで来るだけ。
特に前者は砂浜を見下ろす城の傍らにまで達した《マッド》に、
恐怖心からか、後ずさる足もあって……
「足りない。オマエたちでは。オマエたちでは……」