機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
勝てると思うか?オマエの部下どもだけで」
あの日、ルカーニアは侮蔑するような笑みで俺にそう問うていた。
「……その為に、俺をここに留めているのですか?」
きっと、睨んでいたのだろう。俺は。
何気に目を背後で立つコマチとやらに向けてみれば、
威嚇する猫のように首を屈めて、俺をにらみ返していた。
ただ、ルカーニア自身は、
「……俺がそんなマメな人間に見えるか?」
などと笑い続けるだけで。
「グナイゼナウに爆薬仕掛ける手際のよさを思えば……」
「……ソイツは、別に俺の案じゃない」
「はい?」
試しにもう一度振り返ってコマチの顔を確認してみたものの、
コマチも要領を得ないといった風に顔を逸らすだけで。
「あれの発案は、モーリス・ゴンドー……
いずれ枠が空けば、ORDERの椅子に座るであろう逸材よ。
……まあ、今はヤツの話題じゃねぇが」
ゴンドー……俺にとっても因縁深い名前だが、
それもここで話すことじゃない。
「いいから答えやがれ……聞いてんのは俺だ。
オマエの部下どもは、殺れるか?殺れないのか?」
俺はポケットに手を突っ込み、地団駄踏むように足を踏み鳴らした。
「……モビルスーツは矛であり、盾です。
モビルスーツが戦うんじゃない。戦うのはあくまで人間。
貫けぬものなき矛あれど、何物も通さぬ盾あれど、
使い手次第で勝敗は決まる。そこに矛盾という言葉は介在しない。
パイロットの力量次第ですよ。
いかに、この《デスティニー》もどきが強かろうと、
乗り手に腕がなければ、《ダガー》や《ウィンダム》と変わらない」
そう言う俺の解答に、
「相手は『アームズ』……
ほぼ乗り手は決まっているようなモンじゃねぇか。えぇ?
十中八九、レェ・アモンが来る。
『独弧求敗』といやぁ、てめぇも聞かねぇ訳じゃあるめぇ?
ジェイナス・ビフロンスみてぇな奇術師とは訳が違う。
最強の強化人間、今の戦場で最強の兵士って噂もある。
それを抑えられるかって聞いてんだ。オマエの部下どもが」
などと詰め寄るルカーニア……
──メルス・エル・ケビール市の《フレイヤ》には、
情報は入っており、既に警戒体制は敷かれていた。
帽子を目深に被ったルイス・ハビエルをはじめ、
冷や汗をかくもの、祈るように胸の前にて指を絡ませ手を結ぶもの、
表情が消えた顔、擦られる太もも、震える手……
ルシア・アルメイダでさえも、
貧乏揺すりをしながら、爪を噛む様子を見せており、
余裕なぞは感ぜられない。
『……たった1機のモビルスーツに、何を押されている!』
『後ろに回れ!敵の背後に!』
『うわぁぁぁ!』
『何でェ!』
……聞こえてくる声に分かるのは、一貫性がないこと。
誰かが指示を出しているのではない。
何かが迫ってきていて、どうにか対応している、とみられる状況。
そんな音声が、それから1分も経たないうちに途切れた。
「……ハビエル!」
アルメイダの怒鳴り声の理由は大体予想できる。
どうせ、途切れた原因が分からず、辛く当たったのだろうが。
「恐らくは……」
ハビエルは応じようとするが、言葉に詰まっていた。
操舵手のザイロ・モンキーベアーも、副操舵手のマアト・クィルも、
CIC電子戦担当のゲルハルダス・ズワルトも、
CIC探索担当のルアク・パームシットも、
そして……代理のオペレーターたるマユ・ヴァイデフェルトも。
誰も答えない。誰も答えられない中、
『……殺られたんでしょ?みんな』
なんてアナウンスする、アレハンドロ・フンボルトの声。
『来ますよ……多分、今度はこっちに』
「……アレハンドロ」
名を呼ぶハビエルの声に力がない。
『隊長……俺に、俺のアイデアに乗ってくれませんか?』
コクピットから見て左側の画面にブリッジの様子が映っている。
「好きになさい。アナタの」
アレハンドロの問いに、アルメイダは即答した。
「……隊長?」
振り返るハビエルは無視された。
「通信は傍受されている可能性があります。
そうなれば奇策も台無しになる。
いいわ、アレハンドロ。アナタの好きに動いてみなさい。
こちらがフォローを入れるから」
「ちょっと!」
そう言われて、
ようやくアルメイダもハビエルを見たかと思えば、
「隊長命令です」
の一言で済ませて、取り合わなかった。
さて、それからのことは……
「……敵機接近!」
探索担当のルアクはそんな声を上げながら、
癖なのか、招き猫みたいに振り上げた左手の指2本で、
耳たぶを後ろ側からポンポンと叩いている。
「標的の推定到達時間は?」
……と本来聞くのは、艦長のアルメイダなのだろうが、
ここで問うのは副艦長のハビエル。
「5分後かと」