機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
『遅いなぁ……』
操舵手のザイロが漏らす声。
『このスピード……車並みだ』
なんて指摘したのは、電子戦担当のズワルトで。
『……ザウートでも、もっと速いですよ?』
これは副操舵手のマアトの台詞。
『考えにくいですが……敵は徒歩で移動中と推測すべきかと』
ザイロがハビエルへとそう言伝てすれば、瞬きしつつ、
『まあ……急に移動手段を変えてくる可能性もあるから、
皆、警戒は怠らないで』
ハビエルがそう答える。
そんな彼女は今、肘を曲げ、両の掌を合わせている。
ハビエルはそのまま、
『隊長、ここは……』
こう振り返ったものの、
そこにいた肝心のアルメイダ本人が、
『何?』
そう我関せずとばかりに、毛先を弄くっているもので、
『……いいえ』
と向き直ったきり、それ以上言及しなかった。
『マユちゃん、モビルスーツを出させて!』
『はっ、ふぁい』
なんて返事で舌を噛んだヴァイデフェルトに、
ブリッジ内に妙な沈黙が生まれてしまった。
更に、
『すみませ……』
と謝りかけたヴァイデフェルトの声を遮って、
『……何それ』
なんてアルメイダが笑い出したせいで、
彼女の笑い声を聞きながら、皆が押し黙る事態に悪化。
それでも、
『……アビスが、動いてる』
というズワルトの指摘により、慌てて、
『アァビス、発進どうぞ!』
ヴァイデフェルトがそうした慣れないアナウンスを。
ただ、《アビス》のパイロットは返答しないまま、
飛び出してしまった。
『……はぁ?』
アルメイダだって、そう声に出したのだ。
そんな様子に違和感を持ってもよさそうなものだが、
この日のダイ・フーディーニにその反応はなく。
脳裏を過るのは、今は亡き彼女の記憶。
【「仲間を信じてる」って、アレハンドロが。だから……
だから私は……応えたい!その……気持ちに】
彼女はそう言っていた。
グナイゼナウにおける戦闘の終盤、
ホルローギン・バータルによって奪われる筈だった自身の命。
救われたのは爆発という偶然と、2人の仲間の協力だった。
その2人が今や、片方は裏切り、片方はもうこの世にいない。
ただ、そこに残っているのは、
その形見のごとき《ガイア》というモビルスーツだけで。
そんな《ガイア》には、今、別のパイロットが腰を下ろしている。
『……お先に失礼します』
との言葉に、ダイは言葉を返さない。
UFOキャッチャーみたいに、
アームにて持ち上げられた《ガイア》のボディが持ち出されていく。
そこから、右目にかかった前髪を後ろへと撫でるごとく押し返す、
ダイの所作が終わり、手が顔から離れる頃には、
『ラグネル・サンマルティン……《ガイア》、行きます』
の音声に続けて、パチンコが弾を飛ばすみたいな音が聞こえてきた。
「……認められない。認めたくないな。俺は……薄情かもしれないが」
胸を押さえて倒れる、
ジョーン・ウェールズの姿がフラッシュバックして、それで……
『《3号機》……発ッ進ン、どうぞ』
ヴァイデフェルトの声に静かに答える。
「《インパルス》で…………ダイ・フーディーニだ……出せ」
まもなく、ダイを乗せた《Im/AーP》は、
バスタードソードシルエットと空中にてドッキングする。
それから、緑広がる小高い丘の上に降下した。
背後にはラグネルの《ガイア》が、
右前方には《アビス》の姿がそれぞれ。
「アレハン……」
それは突然だった。ダイが最後まで言わせてもらえない程に。
『……好きにしていいと、隊長は仰られた。
俺はその通りにさせてもらいますよ』
『あれ……アレハンドロ!《アビス》で出たんじゃ……』
「……!?」
ダイの額に流れる冷や汗。
そんな汗が滴るのに合わせるように、
《アビス》がゆっくり振り返っていき……