機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
思えば半月ばかり前のこと、あの『オバマ』での戦いにて、
サムが乗っていると思われた《カオス》に、
実はジェイナス・ビフロンスが乗っていたという事態が起きて。
そして、今となっては、
目前の《アビス》がパイロット不明、
少なくともアレハンドロではないと言われては……
ビフロンスは死んだとはいえ。サムの裏切りもあった。
ダイが身構えるのも無理はあるまい。ただ……
『……アレハンドロも無理言うよな』
何て言うシージーの笑い声が、
ダイのピンと張りつめられた集中の糸を切り落とす。
時を同じくして、シージーを乗せた《1号機》……
すなわち、もう1機の《Im/AーP》が、
ブルートフォースシルエットを装備し、
(以前ハサンが利用していたタイプのシルエット)
向かい側にあった丘の上に着地する。
『人数が人数だからな……
《ジズ》より1機でも多く《ガンダム》を並べたいじゃねぇか』
どこからかは知れないが、
アレハンドロの応答する声がそう聞こえてきて。
『本当は、
ヴァイデフェルトちゃんに《アビス》に乗ってもらう……
つもりだったんだけど』
『何よ?私じゃ不服な訳?』
アレハンドロの呟きに、そう返答したのは、
何故かパーディだった。
「まさか……」
ダイが漏らした声に、パーディが答える。
『ええ。私よ……《アビス》に乗ってるのは』
画面の左下に表示される、《アビス》のコクピット。
確かにそこには、
少し身の丈より大きいノーマルスーツを着て、
前向きに腕の伸びをするパーディの姿があった。
「いや……おい!」
『実際、私のがガッコの成績はマユマユより上だし……あ、痛ッ!』
慌てて腰を押さえるパーディ。
「……おい!傷口が開いたら、どうするつもりだ!」
『なあに……大丈夫よ』
「パーディ!」
ダイの剣幕に、
笑顔だったパーディの表情が変わる。
といっても、満面の笑みが苦笑いに変わる程度だが。
『私は《アビス》……あくまで目的は支援だから。
無理はしないつもりだからね。
心配してくれて嬉しいけど……そんなに怒らないでよ』
「しかし、なあ!」
勢いよく顔を前に出せば、
『もう、ダイちゃん!髪が乱れちゃうよ!』
なんて返答をパーディはするのであって。
「……あのなぁ」
『言いたいことは分かるからけど……』
『為せば為る……っていうだろ?』
そう擁護したのはシージーで。
『パーディに無理させないように、
俺たちが頑張ればいいんだよ。なあ?そうだろ?ダイ』
そう言われては、ダイもケチはつけようがなく。
「……まあ、分かるが」
……いや、訂正しておこう。
別にダイは反論できなかった訳ではない。
ただ単に、そんなことに話題を裂く余裕が消えただけで。
『敵が……来ますね』
ラグネルが先に指摘をした。
「ああ……」
レーダーの反応は確かに伝えていた。《マッド》の到来を。
「シージー……行くぞ」
『ああ……ラグネルさんもお願いしますね』
ダイの口角に皺が寄る中、当のラグネルは、
『……はい』
と小さく答えた。
市街地は、ふたつの丘の麓、
谷間とでもいうべき場所に降り立った3機。
そこからまず、ダイが提唱した。
「フォーメーションはトライアングルで行く……」
『はい』
ラグネルの返事に、遅れて、
『……あっ、ああ』
とシージーも反応した。
それならば、とシージーが前に出ようとしたが、
ダイが手を出し、これを制した。
『……えっ?』
「俺とオマエは後列だ。
《ガイア》の機動力を思えば、前に出てもらった方が都合がいい」
……というのは、まあ、一因であれど根拠ではなかろう。
本音は、不信感にあるのは明らかだった。
サムのこともある。
裏切る余地がある新参者に背後は任せられない、と。
『オマッ……後輩ちゃんを前に出す気かァ~?』
『構いませんよ』
ラグネルは告げる。
『構いませんよ……それで』
シージーの動きは少し止まっていたが、
ダイの機体が右に動いたのに合わせて、左に寄った。
「……パーディは、くれぐれも丘を降りるなよ」
『分かってるっての!』
「シージーも……
敵を視認したら迷わずミサイルを撃ち込め」
『……あぁ』
「アレハンドロ……は、どこにいるのか知らんが……」
ダイの目に《ガイア》の姿は映っている。
映っている、が……
「……各々(おのおの)、抜かりなく」
そう言い、口を閉ざしてしまった。
戦場には今や近付く《マッド》の足音だけが聞かれていた……