機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「なあ、ダイ……少し、過敏なんじゃないか?
いくら、サムのことがあるとはいえ……さぁ。
ホーク小隊長の時といい……今といい……」
そう呼びかけるシージーに、呼ばれた当人は返事を返さない。
「……なぁ?」
『敵が近付いている。無駄話をするな』
「……何だよ、それ」
確かに、足音は迫っていたが。
「いつも、そうだよな。オマエはさ。
いつも都合が悪くなると、ヘンに正論振りかざしてさ……
頭いいからって、ズルいんだよ。本当は、自信ないくせに……」
『………………』
「……何とか言えよ。クソッ」
シージーは苛立ち、テーブルの端を右の拳で叩いた。
『計器に傷がつく』
「……うるせぇよ!!」
怒鳴りがちに、機体にビームライフルを構えさせるシージー。
……そうしている内に、遂に数十メートル先、
右脇のビルとビルの間から、末端に穴の空いたマントが見えた。
レーダーにも同地点に存在する敵の情報が掲示されていた。
僅かに見えたマントの先が海風に吹かれて微かに揺れ、
更に少しすれば足先も見えた。
モビルスーツのサイズからすれば、
せいぜいお子様ランチの上にでも乗った小さな旗、
といった程度に見えていたマントが、
モビルスーツを覆うローブのように見えたかと思ったところに、
暖簾(のれん)を潜るがごとく頭を下げた《マッド》が顔を出し、
それがマントと明らかになったときにはもう、
か細い足はまるで旗の竿、角を擁する頭はまるで竿の穂先、
そしてマントは……戦場にはためく軍旗のようで。
「来た!」
『……見れば分かる』
「うるせぇよ!クソッ!」
とは言いつつも、ダイの指示通り、
両肩に乗ったミサイル弾の計4発を一斉に発射する。
相手は一本道の向こう側であり、障害となるものなどはなく、
ミサイルたちは斜めながら直線を描く形で、
《マッド》の方へと進んでいった。
シージーらから見て、縦1列に並んだこのミサイルたちに被り、
《マッド》の首から下が見えなくなったところでもって、
辛うじて見えていた相手の横顔が、こちらを向いた。
「……あッ!」
と思わず、声を出したのはシージーで。
この直後でもって、動き出した《マッド》。
あのジャックナイフをまたも伸ばしたらしく、
その剣先ぐらいはシージーの方からも見えた。
剣先はミサイルの列の一番下のものを、端より切りつけると、
4つとも斜め一直線を描いて切断。
そうして直ぐに、またマントを翻して1歩引き下がった《マッド》。
この数秒、
見つめていたダイらは《マッド》のその異常なる瞬発力と、
その動きに合わせて起こる赤い残像に、思わず手を止めたというが。
先に動いたのはダイで。
続いてシージーの目線がダイの機体の方へと向いたとき、
彼を乗せた、この白き《Im/AーP》は、
自分の側にあったビルに寄って、体を斜めに構えると、
左のスカート部から抜いたビームガンで、《マッド》のいた方に乱射。
ラグネルの《ガイア》もひとつ前にあった右脇のビルに隠れ、
ビームライフルで攻撃する。
『何してんだ!シージー!撃て!!』
「わっ……分かってる!」
慌ててシージーもビームライフルに加えて、腰からビームガンも抜き、
撃ち込むが……
「……あッ!」
ミサイルの爆発が巻き起こす煙より、
巨大にして真っ赤な光の翼が姿を現したかと思うと、
マントを気球のごとく膨らませた、あの《マッド》が飛び上がり、
その姿を現すのである。
照準を合わせる3人だが、当たらない。いや、というよりも……
『……ズレてるッ』
ダイが気付いた。
あえて言うまでもないが、それはミラージュコロイドの力。
《デスティニー》由来の攪乱能力である。
模擬戦で《ヴェスティージ》に乗った俺がそうであったように、
レーダーの示す反応、あるいは目に見える対象が、
実際に存在する位置とは異なる地点に観測されている。
その上、《マッド》はここまでの進軍速度の遅さが嘘のように、
急加速を始めた。異常なスピードだ。
照準を合わせる余裕がまるでない。
4つの銃口は、
なおも《マッド》が飛び立った最初の地点に向いているのに、
もう当の相手が数メートル先上空に飛んでいるのだから。
それも、シージーを見下ろす位置に……
『……シージィー!』
叫ぶダイの声に、今度はシージーが答えない。
『……動けェェェェ!』