機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-07 強者である為に(1/7)

《マッド》の刃が自身の下へと降り下ろされると分かった瞬間、

もうシージーは動く気力はなかった。

異常な速さ。回避が間に合うとは思えなかった。

……死ぬ、と。

悟った肉体は1秒を驚異的な遅さでもってシージーに伝え、

必死に助かる選択肢を用意させんとしたが、

肝心の体の動きが鈍すぎて、まるで意味を為さない。

ただ遅いだけ。ただ長いだけ。

何の対処法も浮かばない。何の行動も生まれない。

体から力が抜けた。

あぁ……終わった。俺の人生なんて、こんなもんかぁ……

母(かあ)ちゃん、俺、全然ダメだったわ。ごめん。帰れない。

大体、こんなときに思い付くのが母ちゃんとかよ。

だっせぇ人生だよな。

せめて、可愛い女の子の一人でも浮かべば……まだマシなのにさ。

「……畜生」

シージーの手がレバーから落ち、瞼すら落ちた瞬間に、

彼を乗せた黒き《Im/AーP》もまた、力なく膝を落としていた。

ただし、右膝だけ……

「……おッ!?」

シージーという男の、およそ止まったような時が静かに動き出す。

首はまだ胴体に繋がっている。傷もなければ、血も出ちゃいない。

状況を把握するより先に、機体の右腕が切り落とされた。

だが、コクピットではないから。パイロットに痛みはなくて。

続けて機体の上を《ガイア》が飛び越えるのが見えた。

モビルアーマー形態にすらなっていない、

ビームライフルを撃ちかけ進む《ガイア》の姿が。

「ラグネル……さん?」

直後に確信して知った。

右膝に負った傷は、ビームによって削られた跡があったから。

そうか、あのとき……

ラグネルの《ガイア》がビームライフルを撃ち込んで、

俺を助けてくれたのか、と。

そうか、よかった。お陰で命を拾った。

体勢を崩したことで、《マッド》の刃が反れたのだろう。

片腕は失ったが、そんなの大したことじゃない。

本当に危なかった。だから……

「今の見たか?ダイ!……今、ラグネルさんが!」

褒めてやりたかった。自慢したかった。

懐疑的だった、どこぞの臆病者に。

ラグネルは信じられる仲間だと。信じた俺が正しかったと。

自然と口が動いた。自然とダイの方を向いた。

向いて……しまった。

『後ろが、見えてないのかァァァ!!!』

ダイの絶叫に、ようやく《マッド》に視点を戻したときには……

頼みの綱であった《ガイア》は、

旋回するように動いた《マッド》の刃にビームライフルを刻まれ、

数歩、後退する途中。

ダイの援護射撃は、《マッド》には当たらなくて。

だから、シージーは……最後まで言わせてもらえなかった。

『……シージィィィ!』

ダイは叫んだが、不思議とシージー自身の口から声は出なかった。

ハリケーンのごとく旋回し、

迫る《マッド》に対して一言も発することはなく、

ただ、手裏剣のように投げつけられた例の日本刀によって、

人間でいう鳩尾(みぞおち)の辺りを貫かれる。

これはコクピットから見ると、上部の辺り。

刃の下部がシージーの頭頂から鼻の辺りまでを貫通しており、

これが所謂(いわゆる)、致命傷……

シートに叩きつけられたシージーの頭は、妙に軽い音を響かせた。

それは死の痛みによるものか、

はたまた先程嘆きに端を発する不甲斐なさ故か。

息絶えたシージーの眼から、涙の粒が滴ったのだという……




「糞野郎ォォ!」
瞬時に復讐せんとダイは、ビームブーメランを投擲するが、
ようやく止まった赤い竜巻は、見もせずにこれを切り落とした。
同時に、モビルアーマー形態に変形した《ガイア》が、
頭部に生えた角を頼りに突撃を行ったが、
ブーメランに対応したのと、こちらも同時ぐらいのタイミングにて、
斜めに伸び上がるような変則的な蹴りによって挫かれてしまう。
次にまた回るように動いた《マッド》は、
そのジャックナイフでもって《ガイア》への攻撃を試みる。
この間、勿論ダイの《Im/AーP》も動いて、
《マッド》にビームガンを撃ち込んだが、
何とマントによってビームが弾かれてしまったのである。
「……ならば!」
と、《ケトゥ》を殺ったときにでも出来たのであろう、
マントの穴を狙って狙撃しようとするが、
やはりミラージュコロイド。そう上手く当たらないで。
《マッド》の続く《ガイア》への攻撃に際して、
ラグネルも首だけ曲げて、ビームの角を細長く伸ばし、
返り討たんとしたが、こちらもダメで。
《ガイア》がこう反撃の軌道より、
僅か下へ的確に刃を潜ませた《マッド》は、
そのまま半歩ばかり踏み込み、首をはね飛ばしてしまった。
《ガイア》はモビルスーツ形態に戻りつつ退避。
ダイも、
「……クッ!」
と舌打ちを漏らすばかりで、引き下がるしかなかった……
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