機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
この間、パーディは傍観していたのかと言われれば、
勿論、そうではなく。
ずっと狙撃のチャンスを窺っていた。
匍匐するように身を横たえ、
両肩のシールドをトーチカ代わりにして最低限防御を固めながら。
モビルスーツの背丈からすれば、
ちょいと高い跳び箱程度の高さしかない丘の上で。
敵意を見せられれば、簡単に仕留められるであろう。
相手は人間ではなくモビルスーツなのだから。飛べもする訳で。
しかし、怯えていても始まらなくて。
首筋に乗っかったマグヌス・バラエーナ砲と、
額のビームガン、そしてミサイルで、《マッド》を狙う。
察しがいいのは、意外だが新人のラグネルの方で。
首を落とされた辺りから接近戦の不利と《アビス》の援護射撃を宛に、
少し距離を置き、頭部ビームガンとスプンタ・マンユ砲にて、
砲撃に徹していた。残念ながら当たりはしないが。
その反面、本来冷静である筈のダイが遥かに冷静ではない。
「何、焦ってんのよ……似合わないって!」
シージーの仇故か?
一太刀たりともダメージを与えられないどころか、
肩やら脛(すね)やらに傷をつけられる中、
後退りはすれど、距離を取るということをほとんどしない。
そう言えば、いくらかマシに見えるが、実態はあまりにも無様。
仲間の復讐という理想と、小賢しい自己生存との間に揺れているだけ。
怒りに我を忘れているなら、もっと向こう見ずに前に出て、
恐らくはもう切り殺されている。
だのに、そうはならかいままに、ただ矢面に立ち続けるだけ。
攻撃の手はとうに止まっている。
あるのはサンドバッグのように立ちはだかり、耐え続ける姿だけ 。
ほぼ密着状態につき、《アビス》としても攻撃を加えられない。
「……もう!頭冷やせ!」
思い切って、ミサイルの方を放った。放ってしまった。
撃った後で、
「あっ!」
と気付いても、もう遅く。
ダイは見えていないのだ。周りがまるで。
万が一にも《マッド》が避けようものなら、あるいは……
まあ、結局《マッド》は回避はしなかった。
ただ、一瞬、パーディの方を睨むがごとくに振り返ると、
例によって旋回し、ジャックナイフにてミサイルを切りつける。
とはいえ、今回は少々事情が違って。
接触と間もなく爆裂するミサイルを、である。
背後には砲撃を続ける《ガイア》がいるにも関わらず、である。
爪楊枝でするみたいに刺し、砲丸を投げるみたいに振りかぶり、
バッドで殴るみたいにダイの《Im/AーP》にぶつける離れ業(わざ)。
ミサイルは《Im/AーP》を殴打したときに破裂した。
ビームを撒き散らした。
頭へモロに食らってしまって、《Im/AーP》は、体中穴だらけに。
コクピットだけは無事だったようだが、顔にも穴が開き、
背中からビルに叩きつけられてしまう。
……しかし、まあ、これで距離はどうにか取れた。
「こんのォ!!」
などと勇んで立ち上がると、
《アビス》全身の砲口という砲口から砲火の限りをぶつける。
勿論、この間も《ガイア》の砲撃は続いているし、
ダイも意地か、起き上がり小法師とばかりに、ビームガンを乱射。
「これで一発ぐらいは……って!」
そんな雨霰と降り注ぐ攻撃をどう避けたかといえば、
回避などしない。
またしても、あの光の翼を広げて、一歩半ばかり前に出ただけのこと。
たったそれだけで、一切の攻撃から逃れてみせた。
「……マジ悪夢」
もう笑うしかないパーディ。
かくなる上は……と、前に出ようとしたパーディは、
レーダーなんて見ちゃいなかった。見る余裕はなかった。
だから、背後に迫る味方機に気付いていなかった。
だから、急にその腕を引き留められて驚き、振り返る。
『ダイもよせと言っただろ?』
声で分かった。
「……ワイリー先輩?」
パーディを乗せた《アビス》の腕を、
掴んで背後に佇(たたず)む、ワイリー・スパーズの《セイバー》。
傷は大丈夫か、と尋ねる立場はパーディにはない。
何せ自分が手負いで戦場に立っているのだから。
『俺自身……驚いてんだ。
傷が塞がって、新しいモビルスーツを受領するまでは、
冷飯食らいに徹するつもりだったのによ。
……アイツが引っ張り出しやがった』
「『アイツ』って?」
『……アイツだよ』
数秒、《マッド》が来ない違和感もあり、戦場に目を向ければ……
「……なるほどッ」
苦笑したパーディの視線の先には、
慈悲の剣カーテナを腕に、《マッド》の前へ立ちふさがる、
《ヴェスティージ》の姿があった。