機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-07 強者である為に(3/7)

「実際には、なってみなきゃ分からないことですが……」

予防線を張るみたいに、俺はそんなことをルカーニアに述べた。

「うちの隊には……アレハンドロ・フンボルトという男がいて」

どうしてアイツの名前が浮かんできたのか、自分でも分からなかった。

ただ、瞬(まばた)きをした、そのときに、

ふとアイツが昔に言った言葉が、あるいはそれを語るアイツの顔が、

目の奥に広がる暗い闇の世界のどこかに浮かび上がってきていた。

【俺はアンタに……】

「……アイツは宣言したんです。俺に勝つ、と」

「『勝つ』?……オマエにか?」

ルカーニアが俺を持ち上げるように言うのが不思議だった。

ユニウス戦役のとき、俺にそれなりの功罪が出来たことは事実。

だが、このルカーニアという男は、

先の『オバマ』での戦いで俺が啖呵(たんか)を上げなければ、

きっと俺を新型機のパイロット程度にしか認識していなかった……

ハズであるというに。

「はい……生意気なヤツでした。

士官学校で学んでる途上のいち候補生のくせをして……」

目を閉じれば思い出せそうなものだったが。

あの学舎(まなびや)の光景も。

俺がアレハンドロのタイマンに乗った『教育的指導』も。

案内役のマユ・ヴァイデフェルトも。

あの頃、まだ黒髪で陰気そうだったダイ・フーディーニも。

その頃からまるで変わらぬパーディタ・ラドクリフも、

サマンサ・スクリーチも……ジョーン・ウェールズも。

マイク、シージー……

なんて、感慨に耽(ふけ)る為じゃなくて。

「アレハンドロは……真面目な生徒ではありませんでした。

とりあえず単位は取得すればいい、ぐらいの感覚でやってたり、

ナイフ技能や拳銃の扱い方なんて講義じゃ、

教員に何の意味があるんだって突っかかったり、

……まあ、そういう背伸びしたところのあるヤツでして」

おいおい、合コンでもしてんのかよ、って。

連れてきた女の子紹介してんじゃねぇんだよ、って。

大体、男じゃねぇか、って……

そんな風に自分に突っ込み入れていたら、笑いそうになった。

「ただ……アイツには知恵があるんですよ。それだけ」

「どんな知恵だ?」

「何ていうべきか。状況に適応する知恵とでも、いいましょうか……」

 

──遡ること、『オバマ』攻撃前夜。モビルスーツデッキにて。

そこには、ひと一人が通れる程度の狭い橋がかかっており、

橋と地面の距離は十メートル強、

登れば丁度、モビルスーツの胸元辺りと向き合う構図になる。

「……こりゃ、スゴいっすねぇ」

なんて声を漏らしたのは、隣にいたアレハンドロ。

「そんなに珍しいか?」

「モチロンっすよ……教科書でしか見たことないっすから。

まんま《フリーダム》じゃないですか。これぇ……」

話題になっていたのは、目前に立つ一体のモビルスーツ。

《ヴェスティージ》である。

続いてアレハンドロが、多少こちらに顔を寄せたかと思えば、

「ここだけの……話にしてもらえますか?」

と囁(ささやく)く。

「……なんだ?」

それから、少し微笑みがちに続ける。

「……誰もいないときに、ちょっと乗ってみたんすよ」

「おい」

と言ったが、こちらも冗談っぽい言い方で。

するとアレハンドロは、1歩後ろに下がり、

「まあ、聞いてくださいよ……」

と嘯(うそぶ)いた。

左手を押し出すようにこちらに振りながら。

ただ、そこから先は、アレハンドロも多少冷静な顔つきになった。

「正直、難しい機体っすね」

「難しい?」

「はい……機動力とかは申し分ないんですが……

いや、てか良すぎるっていうか、その……

ピーキー過ぎるんすかねぇ。体がついていけないんすよ。

……始めてモビルスーツに乗ったとき以来っすよ。

速すぎて怖いなんて思ったの」

俺は《ヴェスティージ》を見た。ぼんやりと、であるが。

「副長だって……内心、やりにくいって思ってんじゃないっすか?」

そんな言葉に、アレハンドロの方を見ると、

わざとらしく腕組みをしていた。

俺はフンと鼻を鳴らすように笑うと、ゆっくりと息を吐いて、

軽く地面を蹴った。そこは無重力空間だ。勝手に体が浮く。

あとは少し向きさえ調節すれば、

モビルスーツの方へと向かっていってくれる。

その最中、振り返らずに言った。

「……乗らない訳には行かないだろ?それでも」

数秒後、アレハンドロは呟くこととなる……

「……おっとなぁ~」

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