機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「……俺はそんなに大人じゃねぇのに」
自身がネガ的発言を残した《ヴェスティージ》のコクピットにて、
アレハンドロは苦笑を禁じ得なかった。
普段は《アビス》という砲撃型のモビルスーツに乗っている者ゆえか、
大剣カーテナを抱く《ヴェスティージ》の腕は、
剣というよりはどうにも釣竿を握るような、ぎこちなさが伺える。
剣がどうにも重そうで。
さて、海風が吹くビルの谷間にて向き合う両者。
《ヴェスティージ》への配慮からか、
ライフルを構えつつも、《ガイア》はビルの隙間から、
《マッド》を狙うに留まっている。
逆にダイの《Im/A-P》は、先程のミサイルによるダメージで、
立ち上がれないし、腕も上がらず、
穴の空いた顔の右側のみに残されたビームガンの2門は、
リーチと角度の問題で、もう《マッド》には当たるまい。
そんな余裕ゆえなのか?
もうすっかりチーズのようになった穴だらけのマントの中に、
《マッド》はその両腕を隠してしまった。
まるでポケットに手を突っ込み、立っているような、
堂々とした、あるいは傲慢といった印象を受ける様子。
《ヴェスティージ》という新たな敵の登場にも、
モビルスーツゆえの無機質な機械的風格が元々あるといえども、
一切の動揺は見受けられない。
それどころか、我が物顔を地で行くような威容でもって、
また2歩か、3歩か、
猛禽類のごとく発達した3本指の両足で力強く前に踏み出して。
かえって《ヴェスティージ》の方が4歩も、5歩も引き下がる始末。
「俺が戦うしか……ないってか」
《ヴェスティージ》は、その釣竿を引き寄せるように、
両手が右の脇腹辺りに当たる程度に脇を締めると、
猫背気味に背中を丸め、深く腰を落とした。
続いて、カニのハサミがごとくに垂れ下がっていた、
《ヴェスティージ》の両翼が勢いよく起き上がったかと思うと、
目を閉じたくなるような強烈な光を放った。
丁度《マッド》の翼が発した赤い光とは対照的な、青い光だ。
「……オラァ!」
なんて叫び声なぞ上げてみたりして。
およそ《ヴェスティージ》というモビルスーツが出来うる限りの、
トップスピードでもって前進。
その刃が《マッド》のボディにまで……
少なくとも相手の機体があるように見えた位置まで、
到達する約1秒程度のモーションの速さといったら、
見る者には、ただ一陣の風……いや、最早ただの青き光としか、
視認できなかったことであろう。現に、
『……はやッ』
と小さく漏らしたパーディの声を、アレハンドロは聞いている。
しかし……
「へッ?」
アレハンドロの声は間抜けなものだったが、理解は出来よう。
先程までビームの弾道が反れ続けた対象が、
武器が剣に代わったから、当たるようになるかと言えば、
勿論、そんなことはなく。
アレハンドロに言わせれば、
《マッド》の腹部をひと突きにするつもりだったのだろうが、
実際には、その部分は右の脇腹の横辺りで、中身がなく、
ただマントにもう一ヶ所穴を増やしたのみだった。
それでも、剣を振り上げて、腕の1本でも切り落とさんと、
動いた《ヴェスティージ》であるが、
そこは機動力で対等かそれ以上の相手たる《マッド》。
剣が動いたときには、もうそこにマントは消えていて。
またも旋回を始めた、この赤き両翼は、
《ヴェスティージ》の右腕側を通り、
アスファルトの地面を越えて、
次に止まった際には、砂を踏みつける場所まで至っていた。
やっぱり赤い光にしか見えなかったが、
アレハンドロの目は辛うじて軌道を読むことは出来ていた。
その腕からいつの間にやら伸びていた、例のジャックナイフまで、
視認出来たかは定かではないが。
それでも、何か攻撃を受けるかもしれない。
その程度の警戒は出来ていたし、それを元に動けていた。
左に避けた《ヴェスティージ》の身体。
剣を振る動きと、相手の動きを見てから動いた誤差ゆえ、
ジャックナイフの刃は、
一瞬にして《ヴェスティージ》の右腕を肘を刻んでしまった。
とはいえ、もう少し反応が遅れていれば、
刃がコクピットまで達していた可能性ば十分ある。
……さて切断された右肘は、二の腕からはもう離れてしまっているが、
指がまだカーテナを掴んでいる為、地面には落ちていない。
勿論、モビルスーツの腕が切り落とされたところで、
パイロットに痛みなぞはないハズだが、
何故だかコクピットのアレハンドロは、
右肘より下があることを確認するように、
右腕は動かさないままあ、左手で擦っている様子。
「ヤバッ」
一瞬でも、判断を誤れば殺されるだろう。
普通なら、恐怖に顔がひきつっていても不思議はない。
しかし、アレハンドロは笑っていた。それは……
「……チャンスじゃんかよォォ!!大物食いのォ!」