機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

48 / 157
PHASE-07 強者である為に(4/7)

「……俺はそんなに大人じゃねぇのに」

自身がネガ的発言を残した《ヴェスティージ》のコクピットにて、

アレハンドロは苦笑を禁じ得なかった。

普段は《アビス》という砲撃型のモビルスーツに乗っている者ゆえか、

大剣カーテナを抱く《ヴェスティージ》の腕は、

剣というよりはどうにも釣竿を握るような、ぎこちなさが伺える。

剣がどうにも重そうで。

さて、海風が吹くビルの谷間にて向き合う両者。

《ヴェスティージ》への配慮からか、

ライフルを構えつつも、《ガイア》はビルの隙間から、

《マッド》を狙うに留まっている。

逆にダイの《Im/A-P》は、先程のミサイルによるダメージで、

立ち上がれないし、腕も上がらず、

穴の空いた顔の右側のみに残されたビームガンの2門は、

リーチと角度の問題で、もう《マッド》には当たるまい。

そんな余裕ゆえなのか?

もうすっかりチーズのようになった穴だらけのマントの中に、

《マッド》はその両腕を隠してしまった。

まるでポケットに手を突っ込み、立っているような、

堂々とした、あるいは傲慢といった印象を受ける様子。

《ヴェスティージ》という新たな敵の登場にも、

モビルスーツゆえの無機質な機械的風格が元々あるといえども、

一切の動揺は見受けられない。

それどころか、我が物顔を地で行くような威容でもって、

また2歩か、3歩か、

猛禽類のごとく発達した3本指の両足で力強く前に踏み出して。

かえって《ヴェスティージ》の方が4歩も、5歩も引き下がる始末。

「俺が戦うしか……ないってか」

《ヴェスティージ》は、その釣竿を引き寄せるように、

両手が右の脇腹辺りに当たる程度に脇を締めると、

猫背気味に背中を丸め、深く腰を落とした。

続いて、カニのハサミがごとくに垂れ下がっていた、

《ヴェスティージ》の両翼が勢いよく起き上がったかと思うと、

目を閉じたくなるような強烈な光を放った。

丁度《マッド》の翼が発した赤い光とは対照的な、青い光だ。

「……オラァ!」

なんて叫び声なぞ上げてみたりして。

およそ《ヴェスティージ》というモビルスーツが出来うる限りの、

トップスピードでもって前進。

その刃が《マッド》のボディにまで……

少なくとも相手の機体があるように見えた位置まで、

到達する約1秒程度のモーションの速さといったら、

見る者には、ただ一陣の風……いや、最早ただの青き光としか、

視認できなかったことであろう。現に、

『……はやッ』

と小さく漏らしたパーディの声を、アレハンドロは聞いている。

しかし……

「へッ?」

アレハンドロの声は間抜けなものだったが、理解は出来よう。

先程までビームの弾道が反れ続けた対象が、

武器が剣に代わったから、当たるようになるかと言えば、

勿論、そんなことはなく。

アレハンドロに言わせれば、

《マッド》の腹部をひと突きにするつもりだったのだろうが、

実際には、その部分は右の脇腹の横辺りで、中身がなく、

ただマントにもう一ヶ所穴を増やしたのみだった。

それでも、剣を振り上げて、腕の1本でも切り落とさんと、

動いた《ヴェスティージ》であるが、

そこは機動力で対等かそれ以上の相手たる《マッド》。

剣が動いたときには、もうそこにマントは消えていて。

またも旋回を始めた、この赤き両翼は、

《ヴェスティージ》の右腕側を通り、

アスファルトの地面を越えて、

次に止まった際には、砂を踏みつける場所まで至っていた。

やっぱり赤い光にしか見えなかったが、

アレハンドロの目は辛うじて軌道を読むことは出来ていた。

その腕からいつの間にやら伸びていた、例のジャックナイフまで、

視認出来たかは定かではないが。

それでも、何か攻撃を受けるかもしれない。

その程度の警戒は出来ていたし、それを元に動けていた。

左に避けた《ヴェスティージ》の身体。

剣を振る動きと、相手の動きを見てから動いた誤差ゆえ、

ジャックナイフの刃は、

一瞬にして《ヴェスティージ》の右腕を肘を刻んでしまった。

とはいえ、もう少し反応が遅れていれば、

刃がコクピットまで達していた可能性ば十分ある。

……さて切断された右肘は、二の腕からはもう離れてしまっているが、

指がまだカーテナを掴んでいる為、地面には落ちていない。

勿論、モビルスーツの腕が切り落とされたところで、

パイロットに痛みなぞはないハズだが、

何故だかコクピットのアレハンドロは、

右肘より下があることを確認するように、

右腕は動かさないままあ、左手で擦っている様子。

「ヤバッ」

一瞬でも、判断を誤れば殺されるだろう。

普通なら、恐怖に顔がひきつっていても不思議はない。

しかし、アレハンドロは笑っていた。それは……

「……チャンスじゃんかよォォ!!大物食いのォ!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。