機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
何となく、ある気がするんです。一種の必然性のようなもの。
持ってる人間と、そうでない人間がいる。
キラさんや、アスランや……まあ、自分にはないですけど。
それを持っている……ような気がするんですよ。アレハンドロは」
まるで説明になっちゃいないが、
俺がそんなことを倩(つらつら)述べている間中、
不思議とルカーニアは楽しそうだった。
少なくとも口角が上がり、
下唇が歪な「U」の字を描いていたのは事実だ。
「……テメェに運がなくて、その何とかてガキにあるってか?」
「えぇ、もしも。もしもですが、それが自分にあったとしたら……
今頃自分は丸テーブルを介して、
司令のお隣にでも座っていたかもしれません」
背中側に感じた視線。
殺意とまでは言わないが。きっとそんな負の想念がごときものを、
背後であのコマチとかいう女が発していたのだろうて。
ただ、
「ピサロやヴァレフスキがごとき無能でさえ座れる椅子だ。
その可能性も十二分にあっただろうなぁ。
……なんなら、俺がオマエの指揮下にいたかもなぁ」
当のルカーニアがこの通りであり。
そんでもって、俺が嚔(くしゃみ)でもした振りをして、
さりげなく後ろを確認したときには、
もうこのコマチってヤツは俺を見てもいなかった。
ゆっくり顔を上げ、ルカーニアの方へ再度向き直る。
「……言いたいことは分かる。テメェの感覚は間違っちゃいない。
そいつは重要なファクターだ。
おおよそ人間てヤツが、強者である為に必要な……な。
ゴンドーにしてもそう。オマエもだろう……
唯一正しき神様ってヤツは、とんでもなく気分屋なんだよ。
だから人間を選り好みする。
たまぁぁぁに、いるんだよなぁぁぁぁ……
神様に、いや、それか、時代に選ばれたようなヤツがよぉ……
そして、そういうヤツは大抵……楽には死ねない」
アレハンドロの宣誓へ、最初に反応したのはパーディで。
『今、何て……』
しかし、その声はアレハンドロの耳には届かないとみえて。
『パーディ……何かあったら俺が庇ってやる。盾になってやる。
だから……悪いが、一緒に降りてくれ。
あのバカを、放っていたら、どうなるか……』
ワイリーがこんな調子であろうとも、
揶揄された張本人は何の反応もしはしないで。
重要なのは目前の敵。3個小隊を蹴散らした難敵。
実力差は顕著であろうが、
今までだって格上を相手にしたじゃないか?
ヤン・クールカも、カーン・カーァも強かった。
恐怖はない。いや、本当はあるが、あったからって何だという。
どのみち、ここを乗り切れなければ殺されるのは同じであって。
ならば、好機だと思う方がずっと気楽でいれる。
「サムなら……こう言うんだろうな。
『死ぬにはいい日だ』って…………きっとよォ!!」
口に出してみて、男の背筋に寒気が走った。
嘘だ。怖いに決まっている。死ぬのなんて。
画面の端には、腕が転がっているのが見えている。
シージーが乗っていた、黒き《Im/AーP》の残骸である。
『……アレハンドロォ』
ダイの声がした。
それがまるで……スタートを告げる銃声のようで。
先に仕掛けたのは、《ヴェスティージ》の方。
武器をカーテナより変える様子はない。
ただ、背中のモビィ・ディック砲が、
海面に顔を出さんと上昇を始める鯨がごとくに起き上がってはいた。
全く奇妙な体勢だった。いくらか剣術の心得がないとはいっても。
突きのモーションではあった。相手の喉(のど)でも狙ったのだろう。
ただ、足がおかしい。
大地を蹴って飛び上がったのだ。うさぎ跳びじゃあるまいし。
すべては……切り札モビィ・ディックを隠すためか?
「……ヒッ」
笑うアレハンドロ。
互いの歯を傷つけてしまいそうなぐらいに噛み締めて。
バレエダンサーのごとく延び上がった《ヴェスティージ》の身体。
《マッド》はまだ、動いていない。
上から浴びせるように、剣を振った。
切除され灰色に変色した右腕より、揺れの衝撃に堪えかねて、
カーテナに絡ませていた指が剥(は)がれた。
後は重力の助ける通りに、見下ろす《マッド》の上へ。
対する《マッド》の対応は極めて単純。
例のジャックナイフを空に向けて振るうばかり。
動きはほんの一瞬で迷いもなく。
落ちてきた腕をもう一度刻んだかと思うと、
自身に迫っていた慈悲の剣の切っ先をも切り落としてしまった。
勢いそのままに、こちらは逆に屈んでみせた。
《ヴェスティージ》は光の翼を彼の頭上で輝かせながら、
ゆっくりと落ちてきている。
相手も知っていたのだろう。《ヴェスティージ》の腕の仕組み。
そこに仕込まれたビームガトリングの存在を。
誘爆しないよう、切り込みを入れるのみで完全には切断しなかった。
傷口を「く」の字に開かせながら、
切られた勢いにより押し返された腕が、
かえって目潰しとなった《ヴェスティージ》の顔面に激突すれど、
アレハンドロはその衝撃には動じない。
「気付かれて……ねぇ!!」