機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
気付いていない、のはアレハンドロも同じだったが。
熟(つくづく)……アイツは愛されている、と思う。
ダイが動いた。
ダイは、アーモリー・ワンでの俺の戦いを見ていない訳であるから、
何故、その発想に至ったのかは分からない。
後に映像で確認したのか? それとも、咄嗟の機転だったのか?
何にせよ、
アイツは動かない《Im/AーP》のボディから脚部を切り離すと、
その勢いに任せて一気に《マッド》へと近付いた。
ラグネルにしても、そう。時系列で言えば、彼女の方が早い。
パーディが砲撃を加えた時点から、
攻撃をしていなかった彼女が、ここまで何をしていたかと言うと、
動いていた。
レーダーには反応があるとはいえ、極力物音は立てずに。
物陰から物陰へ。《マッド》を狙撃する絶妙な位置へと。
ワイリーとパーディについては言わずもがな。
こちらもあまり意味はないのだが、
以前と同じく機体を透明にした《セイバー》が降下してくる。
念の為に近くに転がっていた人間大の岩を後ろ足で蹴飛ばし、
音声的に撹乱(かくらん)すると共に、
降下する瞬間だけ、《アビス》の背後について、
青き炎を上げる背中のスラスターを隠す。
そうして地上に降りてすぐ、
《アビス》の前に《セイバー》が動いた。
《インパルス》、《セイバー》、《ガイア》、《アビス》……
色で言えば、白、赤(このときは透明だが)、黒、そして水色と。
敵の背後に迫るダイ、左側に砲口を向けるラグネル、
正面右側にはワイリーがいて、そのやや後方にパーディがいる。
……正面にて、青き翼を広げて舞い降りる、
アレハンドロの《ヴェスティージ》については、言わずもがな。
さぁ、白鯨の御出座(おでま)しだ。
首を下げた《ヴェスティージ》が、モビィ・ディックをぶちかます。
至近距離に加え、モビィ・ディックの初速度を考えれば、
アレハンドロが確信を胸に攻撃へ及んだことは想像に難くない。
……ただ、その淡き期待は脆くも裏切られることとなる。
表情豊かなアレハンドロ・フンボルトという男が、
予想外の事態に言葉を失っていた。
考えたことであろう。どうしてだ?と。
どうして……自分が地面に叩きつけられているのか、と。
「……ヤバッ!」
大急ぎでスラスターを起動した。
無様にも頭から地面に倒れた《ヴェスティージ》の身体が、
青き翼の光輝くのに合わせて、海の方へと一気に押し出された。
頭と砲身を引き摺(ず)り、アスファルトに火の粉を巻きながら。
ただ、その《ヴェスティージ》の機動力を以てしても、
完全には逃れることは叶わず、
《マッド》に両翼のおおよそ後ろ半分を切り落とされてしまった。
その際、切断の衝撃で《ヴェスティージ》に弾みがつき、
勢いに任せて一回転すると、
今度は両膝を地面と擦りつけながら、砂浜まで押し返された。
カーテナを手放し、ブレーキ代わりに左手を地面に添える。
《ヴェスティージ》の動きが止まったときには、
舗装された道路を過ぎており、爪先は砂を踏んでいた。
そこまで来てやっと、
「……何されたんだよ!クソッ!」
そんな憎まれ口を叩く余裕がアレハンドロに生まれる。
さて、砲身を確認してみて驚いた。何せ、潰れていたのだから。
そうして思い出す。砲撃の瞬間を。
例によってミラージュコロイドが正確な位置を教えなかったとはいえ、
距離が距離であるから、当たらないハズはなかった。
ただ、あのとき、《マッド》の両腕が光ったように……
「……ッ!」
文字で表記することは難しいが、そんな声だった。
アレハンドロの目に映ったのは、
芋虫のように這って進み、ビームガンを乱射する《Im/AーP》に、
隙間より狙撃を試みる《ガイア》、
砲撃を加えつつ、自身の方へと後退してくる《アビス》、
そして、それらを全て回避しつつ、
《セイバー》が切りつけるビームサーベルの刃を、
掌で受け止める《マッド》の姿だった。
その光景は僅か一瞬で、
すぐにビームサーベルの方が手を引いたが。
《マッド》の恐るべきは回避の瞬間、
レーダーには表示されていようと見えはしない《セイバー》を、
ジャックナイフを伸ばして追撃し、
右腕を切り飛ばしてしまった技量であろう。
もっとも、アレハンドロの目に止まっていたのは、そこではなくて。
あの光は何だったのか?……いや、まさか。
「……《デスティニー》だとでも、言うのかよ!」
辻褄が合うのは、実証済み。となれば、あの腕の光は……
「パルマフィキオーナか!」
ジャックナイフを避けて、懐に入ったとみられる《セイバー》の頭を、
鷲掴みにして、掌のビームにて消し飛ばす《マッド》。
その激しさゆえ、吹き飛ばされた見えざる《セイバー》の身体が、
アスファルトの上に横転。これが随分と大きな音を立てた。
《Im/AーP》はスノーボードのように足蹴にし、
《ガイア》はブーメラン状の武器を投げて攻撃の手を止めさせた。
今、《マッド》は海岸線を、
……《ヴェスティージ》を見据えている。