機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
宿敵と認めたか?それとも完璧に仕留めんとする意地か?
ゆっくりと前進を始めた《マッド》。
しかし、そうなればパーディだって動く。
手負いの《アレハンドロ》を咄嗟に庇おうと前に出た。
両肩のシールドに身を守らせ、体勢を屈めて。
武器はやはりマグネス・バラエーナと、ビームガンに相違なく、
シールドの隙間より覗く砲身が《マッド》に乱射する。
この間、ワイリーも脚部を狙い、発砲を行った。
ラグネルの《ガイア》も埒(らち)があかぬと前に出て。
しかし、また当たらない。
ワイリーの狙撃に際して、
《マッド》のボディが影にあった見えていなかったパーディは、
ビームの光が敵の股下を通り過ぎ、地面を焦がしたのに、
気を取られた一瞬で、
間合いを詰めた《マッド》に切り伏せられてしまった。
ただ、最低限、コクピットを守るという防衛本能は働いたらしく、
《マッド》の刃が迫る左側へ、
肘を曲げて腹部を守り、そして右へ回避する動きを見せた。
お陰で片腕を失うに留まった。
もっとも、本人はこの対応に後悔することとなる。
「アレハンドロッ!」
叫んで、振り返ったパーディ。あるいは《アビス》が見たものは、
左腕を胸の前に突き出した《ヴェスティージ》の姿だった。
まるで空手の正拳突きのごとく、真っ直ぐに。
この大声は脇腹の傷に響き、彼女を苦しめたが、
今度は見逃すまいと、顔は画面から離さない。
肘のカバーが持ち上がる。目前に迫る《マッド》。
『伏せろ!みんなぁ!!』
なんていうアレハンドロの叫び声は、放たれてから上げられた。
ビームガトリング砲クトゥルフである。
威力は流石に抑えたのだろうが、
それでも、ほんの2、3秒にして、
回避行動を取った《セイバー》、《ガイア》を巻き込んで傷付け、
《Im/AーP》の上半身にも止めを刺し、
遠方に見えていた建物・電柱の類いを大きく破壊した。
それでもヤツだけは……《マッド》だけは倒せない。
体操選手のように、地面を蹴って大きく飛び上がり、
空中で旋回しつつ、やがては獲物を啄(ついば)む鳥みたいに、
左の二の腕から首筋まで切り刻んだ。
《ヴェスティージ》も飛び上がるのに合わせて、
腕を掲げて、砲口を空へと向けたものの、
マントの隙間に飲まれるように数発が《マッド》を被弾したものの、
ダメージらしいダメージは与えられず。
左腕を転がし、頭上に疎(まば)らな花火を散らしながら、
《ヴェスティージ》は右膝を地面についた。
さて、マントの奥から微かに煙を上げる《マッド》は、
《ヴェスティージ》の背後に着地、相手の腰へ刃を近付けるが……
『……そこまでだ。ソイツは……俺の部下でな』
『ダスティン・ホーク小隊長より、《フレイヤ》へ、ご報告します。
トライン・ラドクリフ両隊の協力を得て、
無事、オランを奪還いたしました。
壊滅した3小隊が大部分は制圧してくれていた分、
スムーズに事を運ぶことが出来ました。
しかし、何より……
よくぞ、ヤツを足止めしておいてくださった』
言葉通り、《フレイヤ》クルーに届けられたダスティンの音声。
「……ヤツ?」
聞き返すアルメイダ以外の隊員は、
その語の意味するところに気付いているらしかった。
だが一応とばかりに、
モニターに映るダスティンが、
『アイツですよ。白いマントをした、赤いモビルスーツ。
本当は《マッド》っていうらしんですがね。
とにかくヤツが、単機で3小隊を沈黙させました』
と付け加えた。
『ここまでは、コマチ・カショウ補佐官の命を受けていましたが、
合流後については何を言われておりません。
つきましては、《フレイヤ》より、これからの指示を……』
ダスティンの言葉に、アルメイダは目線をハビエルに送る。
人差し指にて己を差し、首を傾げたハビエルに、
アルメイダはさも当然といった顔つきで頷く。
ハビエルは苦笑う。
「副艦長ハビエルより……しばらくは、そちらにて待機をお願いします」
ダスティンとしても、アルメイダが答えるものと思ったのだろう。
『……了解しました』
という返答を返すまで、少しの間があって。
「……ごめんなさいね」
ピンマイクを口元に寄せ、
アルメイダには聞こえないよう小声でハビエルが。
その後、一応振り返り、アルメイダを確認しているが、
特に聞こえた様子はなかった。
「……報告は以上?」
『いえ……もう一点だけ……』