機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
どこでその技術得たのか、
実戦投入してきたニュートロン・スタンピーダーにより、
クライン朝は戦力的優位を失うこととなった。
核エンジンが使えない、というのがザフトにどれだけ痛手になったか、
それは想像に難くない。
《フリーダム》も《ジャスティス》も、もう使えない訳で。
ならば、と今更引っ張り出されてきたのは、
《YFX-600R 火器運用試験型ゲイツ改》というモビルスーツ。
当時の主力量産機だった《ゲイツ》をベースに、
《フリーダム》や《ジャスティス》の武装を運用する為に開発された、
実験機である。
はっきり言えば失敗作。
核エンジンがないからって、稼働時間が短すぎるのだもの。
実戦でも使われたらしいが、どう考えても実戦向きじゃない。
ただ、後の《フリーダム》らに与えた影響はデカい上に、
デュートリオン送電システム確立のお陰で、
技術者連中はコイツのようなフェイズシフト装甲を備えた量産機、
《ゲルググ》を完成させるから、捨てたもんではない。
……さて、じゃあ、
今度は《フリーダム》や《ジャスティス》を再現しようとなったとき、
何の因果か?似たようなモビルスーツが開発されることになる。
《YFX-1014JG 火器運用調整型ゲルググ改》と、
やっぱり長い名前だ。
そして、時系列的にも《ヴェスティージ》完成以前のもの。
テストもとっくに終わって、解体を待っている……
ハズだったんだが。
まさか、こうして日の目を見ることになろうとは。
紫色した、この《ゲルググ改》に乗った俺(シン・アスカ)が、
《マッド》の背後につけて、ビームライフルを突きつける。
ラインメタルMG3を彷彿とさせる、ロングライフルだ。
「オマエがうちの部下たちを苛(いじ)めている間に、
オランにいた大西洋連邦だか、ナイルの神様だかの軍勢は引き上げた。
残るはオマエ1人。生憎、モビルスーツ1機が戦場を蹂躙するような、
そんな時代はとっくに終わってんだよ……手を引け。文字通りな」
偉そうに講釈垂れながらも、疑問は絶えなかった。
目の前の敵に夢中なアレハンドロ辺りならいざ知らず、
何故、コイツは、こうもあっさり俺の接近を許したのか?
俺の銃口がテメェの腰に押し当てられるまで、
いや、押し当てられた今ですら、
何故、ろくに避ける素振りさえ見せないのか?
「……何とか言えよ!この野郎」
銃口をより強く押し付ける。
動きを止めたままに、首だけがゆっくりとこちらに向いていく。
『弱いな……』
相手のパイロットなのだろう、低い男の声にてそう告げる。
「『弱い』?……俺に言ってのかよ?ソイツは」
『私に言わせれば……遠方より戦える武器をその手に持ちながら、
使わず、わざわざ私の背後まで近付いてくる、
……君の行動の方が遥かに不可解だ』
何故、俺の考えを……なんて間抜けな台詞を吐いたりはしないが。
『フィリップ・マーロウが言ったろう?
「撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけだ」と』
フィリップ・マーロウ。
レイモンド・チャンドラーハードボイルド小説に出てくる、
探偵の名前がそうだったか?
……いや、そんなことは、今、どうだっていい。
「……なるほどね」
銃口をゆっくりと離した。
先程、
アイツらの決死の銃撃・砲撃がまるで当たらなかったところは見たし、
何より《デスティニー》由来の撹乱能力が、
俺の狙撃を外させることは優に想像できた。
それでも、ゼロ距離ならば?……いや、無理だ。
どうなるかは目に見えている。
「なら……これは、交渉だ。手を……引いてもらえるか?」
『えッ!』
アレハンドロの漏らす声が、俺に瞳を閉じさせた。
『懇願するか?私に』
「あぁ……アンタの望むものは、ここにはない」
『……フン』
《ヴェスティージ》の腰からゆっくりと刃が離れていく。
安心からか?パーディの漏らした吐息がマイク越しに聞こえてきた。
そして……あのジャックナイフを《ゲルググ改》に向けて突き出した。
ロングレンジのビームライフルは脆くも切り落とされ、
その刃先がコクピットに接触しかけたとき、
逆手で抜いていた俺のビームサーベルもまた、
ヤツの腰に触れていた。
いや、正確には……
『零コンマ何秒』
「アンタの方が速かった……アンタの勝ちだ。これで…………満足か?」
ヤツは何も答えなかった。俺もそれ以上、何も告げなかった。
誰も何も非難することも、称賛することもなかった。
ただ、1つの黒き屍と、手負いの獣たちを置き去りにして、
ヤツは……レェ・アモンは、戦場を去って行った。