機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

52 / 157
──プラントの南米基地建設に反発した大西洋連邦が、
どこでその技術得たのか、
実戦投入してきたニュートロン・スタンピーダーにより、
クライン朝は戦力的優位を失うこととなった。
核エンジンが使えない、というのがザフトにどれだけ痛手になったか、
それは想像に難くない。
《フリーダム》も《ジャスティス》も、もう使えない訳で。
ならば、と今更引っ張り出されてきたのは、
《YFX-600R 火器運用試験型ゲイツ改》というモビルスーツ。
当時の主力量産機だった《ゲイツ》をベースに、
《フリーダム》や《ジャスティス》の武装を運用する為に開発された、
実験機である。
はっきり言えば失敗作。
核エンジンがないからって、稼働時間が短すぎるのだもの。
実戦でも使われたらしいが、どう考えても実戦向きじゃない。
ただ、後の《フリーダム》らに与えた影響はデカい上に、
デュートリオン送電システム確立のお陰で、
技術者連中はコイツのようなフェイズシフト装甲を備えた量産機、
《ゲルググ》を完成させるから、捨てたもんではない。
……さて、じゃあ、
今度は《フリーダム》や《ジャスティス》を再現しようとなったとき、
何の因果か?似たようなモビルスーツが開発されることになる。
《YFX-1014JG 火器運用調整型ゲルググ改》と、
やっぱり長い名前だ。
そして、時系列的にも《ヴェスティージ》完成以前のもの。
テストもとっくに終わって、解体を待っている……
ハズだったんだが。
まさか、こうして日の目を見ることになろうとは。


PHASE-08 青き闇の中に(1/7)

紫色した、この《ゲルググ改》に乗った俺(シン・アスカ)が、

《マッド》の背後につけて、ビームライフルを突きつける。

ラインメタルMG3を彷彿とさせる、ロングライフルだ。

「オマエがうちの部下たちを苛(いじ)めている間に、

オランにいた大西洋連邦だか、ナイルの神様だかの軍勢は引き上げた。

残るはオマエ1人。生憎、モビルスーツ1機が戦場を蹂躙するような、

そんな時代はとっくに終わってんだよ……手を引け。文字通りな」

偉そうに講釈垂れながらも、疑問は絶えなかった。

目の前の敵に夢中なアレハンドロ辺りならいざ知らず、

何故、コイツは、こうもあっさり俺の接近を許したのか?

俺の銃口がテメェの腰に押し当てられるまで、

いや、押し当てられた今ですら、

何故、ろくに避ける素振りさえ見せないのか?

「……何とか言えよ!この野郎」

銃口をより強く押し付ける。

動きを止めたままに、首だけがゆっくりとこちらに向いていく。

『弱いな……』

相手のパイロットなのだろう、低い男の声にてそう告げる。

「『弱い』?……俺に言ってのかよ?ソイツは」

『私に言わせれば……遠方より戦える武器をその手に持ちながら、

使わず、わざわざ私の背後まで近付いてくる、

……君の行動の方が遥かに不可解だ』

何故、俺の考えを……なんて間抜けな台詞を吐いたりはしないが。

『フィリップ・マーロウが言ったろう?

「撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけだ」と』

フィリップ・マーロウ。

レイモンド・チャンドラーハードボイルド小説に出てくる、

探偵の名前がそうだったか?

……いや、そんなことは、今、どうだっていい。

「……なるほどね」

銃口をゆっくりと離した。

先程、

アイツらの決死の銃撃・砲撃がまるで当たらなかったところは見たし、

何より《デスティニー》由来の撹乱能力が、

俺の狙撃を外させることは優に想像できた。

それでも、ゼロ距離ならば?……いや、無理だ。

どうなるかは目に見えている。

「なら……これは、交渉だ。手を……引いてもらえるか?」

『えッ!』

アレハンドロの漏らす声が、俺に瞳を閉じさせた。

『懇願するか?私に』

「あぁ……アンタの望むものは、ここにはない」

『……フン』

《ヴェスティージ》の腰からゆっくりと刃が離れていく。

安心からか?パーディの漏らした吐息がマイク越しに聞こえてきた。

そして……あのジャックナイフを《ゲルググ改》に向けて突き出した。

ロングレンジのビームライフルは脆くも切り落とされ、

その刃先がコクピットに接触しかけたとき、

逆手で抜いていた俺のビームサーベルもまた、

ヤツの腰に触れていた。

いや、正確には……

『零コンマ何秒』

「アンタの方が速かった……アンタの勝ちだ。これで…………満足か?」

ヤツは何も答えなかった。俺もそれ以上、何も告げなかった。

誰も何も非難することも、称賛することもなかった。

ただ、1つの黒き屍と、手負いの獣たちを置き去りにして、

ヤツは……レェ・アモンは、戦場を去って行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。