機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-08 青き闇の中に(2/7)

──オラン奪還の急報がプラントに伝えられた夜、

アププリウスは参謀長室にて、

「協力に感謝します……ダグ・バーテルソン司令」

電話口に頭を垂れるスコルツェニーの姿があった。

『……当然のことをしたまでです。「オバマ」攻撃の時点で、

脱走兵幹部がイベリア半島への亡命の情報は入っていましたから。

……残念ながら、

先日臨時で開かれた「円卓会議」には参加が叶いませんでしたが、

会議での決定には従いますよ。私も軍人ですから』

そう誉めるように言うバーテルソンではあるが、

スコルツェニーも皮肉が分からない訳ではなくて。

先日の『オバマ』攻撃を決定した、

臨時の『円卓会議』にバーテルソンは確かにいなかった。

ただ、オートクレール亡命の一件は知っていたから、

出ていれば話は変わっていた。

実質的に貴方が私の参加できない状況を見計らって……

という恨み節がそこにあることに、気付いている。

『……脱走兵の備えに、

ジブラルタルにトラインを向かわせていて、よかったですよ』

バーテルソンは強調した、『脱走兵の備え』という箇所を。

……北アフリカ攻略に回させたことへの当て擦(こす)りであろう。

「ええ、まったくですよ」

などと、笑ってみせるスコルツェニーだが、

応答の直前、ほんの一瞬だけ、顔を歪ませていた。

「……バーテルソン司令、どうやら私は思い違いをしていたようだ。

貴方の判断が正しかった。

ルカーニア司令は『オバマ』攻めという強硬策に出たが、

お陰で外務委員長が随分と、

大西洋連邦側との交渉に難儀されているようで。

結論を急ぐべきではなかった。

私は貴方にこそ、脱走兵追討の任を担っていただきたかった」

スコルツェニーもよく言う。そんな無神経な台詞を。

相手をヨイショしつつ、さりげに自身の責任ではなく、

あくまでルカーニアの判断だと強調するのだから。

『……それは、どうも』

やや鈍い反応が全てを物語っている。

スコルツェニーの下心を察したバーテルソンという男が、

如何に困惑しているか。

『それほどの大任、私に務まるとは……』

「……いえ。勿論、そこまでのご面倒をおかけする訳にはいきません。

ラクス様としても、

ルカーニア司令に名誉挽回の機会を与えたいとのお考えがある。

何より……ルカーニア司令の影響力を考えれば、

事を荒立てるのは、そもそも得策ではありませんし」

『……「そこまで」?』

バーテルソンの勘は当たったようで。

「ええ……ひとつ、バーテルソン司令にお頼みしたいことが……」




さて、オランに戻ろう。
昔はどうだったか知らないが、 俺たちが来たときにはもう、
この街はシャッターの降りたバーが並ぶ、寂れた漁村であって。
住民のほとんどは、
何時戦闘になってもいいように、地下シェルターで生活をしており、
町中にはトラックや大型車ばかりが走り、
ダカール・ラリーでもやっているのかといいたくなる。
殊(こと)、午後に状況を限定するなら、尚更酷い。
初夏が近付く昼の長き季節にあって、
夜はまだしも、美しき夕陽が照らす街に、
およそ人間の姿はなく、店の灯りもなければ、
夜になっても外灯のひとつも灯されちゃいない。
「……昔は、この辺も歓楽街だったんですよ」
店主をしている黒人の婆さんがシワだらけの口でしみじみ語っていた。
「……はぁ」
と、適当に相槌を打ちながら、
フランス産とかいうノンアルコールのワインを流し込む。
本当のところ、婆さんなんて見ちゃいなかった。
ゆりかごがごとく揺れるイスに凭れて、
生きてんのか死んでんのか、目を細めた婆さんの奥、
酒瓶の並ぶ棚のガラス戸に反射して、背後が見える。
ストリップ……とは言わないが、
上はブラジャーだけ、下はスカートみたいな格好で、
頭にティアラなんか乗せた、混血とおぼしき浅黒い肌の踊り娘が、
手を引いて男を誘惑していたりする。
惑わされている男はアーサー・トライン。
34歳にもなって、手招きされて頬を赤らめる、このオッサンを、
「「フゥーーフゥーー!」」
なんて甲高い声で捲(まく)し立てる。
俺は、毛の密度が少なくなったトラインの頭頂部を見るに、
みっともない……と言いかけた口をつぐむのに苦労していた。
しばらくすると、婆さんが料理を俺の前に置いた。
その料理というのが、まあ、煮付けらしい。
使ってるのは明らかに牛肉なんだが、
婆さんはそれを東坡肉(トンポーロー)だと言い張って、
「アンタ、チャイニーズだろ?昔、中国人から習ったんだ。
懐かしいだろう?」
なんて適当なこと言うもんだから、訂正しようと思ったら、
「……気にしないで」
とかなんとか言って制されてしまった。
やむなく、
「……シェイシェ」
なんて、俺も適当に返事を返せば、婆さんは満足そうで。
まあ、普通箸だろうと思ったが、
何故か置かれていたのがナイフとフォークだったから、
フォークで刺して、肉を持ち上げる。
それから、
「『自家を飽かり得れば君管すること莫かれ 』……てか?」
なんて苦笑しながら、口に運んだ。
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