機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「ダイくん、そういう言い方はちょっと……」
「よく言えるな……アイツに銃口を向けられたクセに。
だから今日だって、話しかけられないんだろ?違うか?」
そう詰め寄られれば、ヴァイデフェルトも返す言葉を持たない。
「何が歴戦の英雄……何が伝説のパイロットだ。
そりゃ、自分は戦果も挙げられるハズだ。
部下を省みず、強敵ばかりを相手にしゃしゃり出ていけばなぁ。
ジェイナス・ビフロンス、カーン・カーァ、
それから、例の頭足類みたいなモビルアーマーと。
大した戦果だよ。でもなぁ……その間に何が起きた?
仲間が何人死んだと思ってる?
ジョーンのときなんか、あの人がビフロンスを捕虜にしようなんて、
バカな判断しなきゃ起こらなかったことじゃないか?
今回だって、もっと早く着いてれば、
シージーを助けられたかもしれないのに……
そんなんだから、サムの裏切りにも気付けないんだよ!」
荒っぽく缶を握り締めれば、空と思われた中から、
ビールらしき黄色い液体が噴出し、ダイの腕を濡らした。
「ダイくん」
「……チッ!」
そうダイが舌打ちをした直後、
右側からアレハンドロの左腕が伸びてきて、彼の胸ぐらを掴んだ。
「何だよ?アレハンドロォ!」
アレハンドロは顔を下げている。
「……ざっけんな」
と一言言うにも、ボソリとしか聞こえてこない。しかし、
「テメェが上手くやれなかっただけのことを、
副長に当たってんじゃねぇ!」
そう怒鳴ると共に、その顔はピンと跳ね上げられた。
「……何だと?」
「スパイが出たからって、後輩なんかにビビってよぉ~……
シージーが殺られた途端に冷静さ無くして、皆に迷惑かけたクセに。
よく言えるなって言ってんだよ!他人のことなんかよぉ!!」
アレハンドロの勢いに、言葉に詰まるダイではあったが、それでも、
「何だ?カッコつけて前に出て、皆に守ってもらったヤツが、
随分偉そうじゃないか。ええ?」
などと嘲笑。
「……俺は誰のせいにもしてねぇ」
「まるで俺が人のせいにしたみたいな言い方だな?勘違いすんなよ。
俺は事実を言ってるだけだ。
あそこに座ってるあの人は、そんな人なんだよ。
俺たちを助けてなんてくれない。
自分さえよければ、それでいいって……思ってるに決まってる。
いい機会だから、俺が提言してんだ!黙って聞け!」
言葉の激しさに、唾が飛んで、
咄嗟に1度は顔を逸らしたアレハンドロではあったが、すぐに、
「屁理屈言うなよ!」
って言い返した。
「……どこが屁理屈だ?
現に敵わないと思って、敵に命乞いしたのは誰だったと思ってる!」
ダイの叫びに、店内が静まり返るも、
当の2人は気付いていないという様子であり。
ただ、アレハンドロも、
その1件については反論の言葉を持ち合わせていなかった。
「……違うのか!言ってみろよ!おい!!」
そう捲し立てるダイを、
「そうだ。俺が悪かった」
と肩に手を置き、宥めるのは……
「……副長」
そう呼んで、慌てて頭を垂れるアレハンドロに、
俺はかける言葉を見つけられなかった。
ダイは、その金色の髪をこちらに向けたまま、振り返ろうともしない。
「オマエが正しいよ。ダイ。俺は役立たずだ。
……オマエら2人が口論になって、店に迷惑かけるのだって、
俺の監督責任だ」
我ながら、意地悪な言い方をしたものだ。2人は何も答えない。
ゆっくり振り返り、例の婆さんに、
「……騒がせて申し訳ない。この2人は俺の部下でして。
俺が不甲斐ないばかりに、こういうことを起こしてしまった。
責任をもって連れて帰りますから、今日のところはご勘弁ください」
婆さんは何も言わなかった。
「トライン隊長、ラドクリフ隊長……お先に失礼します」
両隊長も何も言わなかった。
それからアレハンドロもダイも、
何も反抗することなく、何も反論することなく、店を後にする。
突如として何もかもが消え去ってしまったような静寂の中で、
積まれた氷が落ちる微かな音が耳に残った。
2人が店を出たところで、ふと振り返って気付く。
それが、あのビンタンとかいう女の入れたラム酒のグラスだと。
……何もなかったような顔で俺もドアの外へと。
それから数分後、残ったヴァイデフェルトは聞いたという。
「前は自分が怒られる立場だったのに……
アスランみたいになっちゃったなぁ。シンのヤツ……可哀想に」
なんていう、アーサー・トラインの溜め息を。