機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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同日、コルドバにて。
後に調べて分かったことだが、コルドバとオランに時差は存在しない。
右も左も白地に青か黄色を挿した清楚な建物が並ぶ、
そこ──旧ユダヤ人街は、
昼間なら陽光に照らされて澄んだ世界として現れるのであろうが、
夜となってはどうにも暗く、
外灯と家が漏れる光が、蛍火のように微かに色をつけるだけであった。
そんな街、
大型トラックならつっかえてしまいそうな狭い石畳の路地を、
ネクタイを雑に緩めながら歩む男の姿があった。
ジャケットは脱いで、鞄(かばん)よろしく肩に乗せている。
青白いシャツはボタンの一番上を外しており、
また、一々抜き取るのが面倒なのか、タバコを口角に押しやって、
口付けするように尖らせた口の先から煙を吐き出すと、
タバコをまた口の中央に戻すという器用な真似をしてみせたり。
しかし、そのうちに上手くやれなくなって、溢(こぼ)してしまった。
地面に落ちたタバコを、前に出た左足が踏み潰してしまう。
「……チッ」
舌打ちしつつも、拾わんと屈む男。
……そんな男の背中で、カチッという金属音が聞こえた。
「アンドレイ・ココフ、だな?」
後ろからそう伝えられた声は、男にもの……だが、比較的声は高い。
また告げる声に力はなく、やや震えてさえいる。
「……あぁ?」
何て振り返れば、紅葉がごとき赤茶けた髪の毛が目について。
「テメェは、確か……シーザー・ルチアーノのとこにいた……」
「ヴィーノ・デュプレだ。一緒に来てもらう!」


PHASE-08 青き闇の中に(6/7)

「つまり……セベク・アガレスはザフト脱走兵を受け入れた……と?」

「そういうことになります」

「……なるほど」

そう言うと、男は突き出た顎(あご)をスッと撫でた。

そのモーションは髭(ひげ)を引っ張る仕草に見えたが、

そこに髭はない。モミアゲと繋がって、

頬髭だか顎髭だかが輪郭を隠すばかりに生えていながらに、

何故か中央の顎だけ何も生えていないのである。

それがこの男──クラウス・ゴトウダのもう1つの特徴といえよう。

「我々は……間に合わなかった、という訳ですか」

向かいに腰かけた人物が、顔を手で覆い、クシャクシャに握り締める。

顔を下げるに合わせて、両耳のあのイヤリングが揺れる。

ゴトウダは、

「……初めからセベク・アガレスは我々と結ぶ気などなかった、

と考えるのが正確でしょう」

などとコーヒーを飲む片手間に応じる。

「バーテルソン司令……ファッマ・ガンバリは、

やはり最初からムーサー側に派遣すべきだったようだ。

現に、『明けの砂漠』ムーサー・カリーアッラーフは我々を、

敵と結ばんとした二枚舌外交と見て警戒を強めている」

そう語りつつ、ゆっくりとコーヒーカップをテーブルに置く。

「最善手とは言いませんが、私のスタンスは変わりません。

変えません。

武力に訴えかけるやり方など……ベターであってもベストではない」

「……否定はしませんが」

どうぞとゴトウダが手を出せば、

「あぁ」

とコーヒーカップに手をかけたバーテルソン。

「やはり……ザフト脱走兵と大西洋連邦、そして、ナイルの……

いや、『ネイキッド・アームズ』というべきでしょう。

彼らに一定のパイプがあったと言えます。

《ダーティ》の件は既に『オバマ』攻略戦以前に、

ヴィトー・ルカーニア司令より報告されていましたが」

語るゴトウダ。全く、忙しない人物である。

話しつつ、目前のノートパソコンを弄っている上、

目が画面の恐らく中央辺り、次いで時間の表示されている端の部分、

そして時たまにバーテルソンの顔ないしは周囲、

更にカーテンの片手ほどしかない小さな隙間より見える、

外の景色と、数秒のうちに視点はバタバタと切り替わり、

そして、その間も会話を途切れさせることをしないのだから。

「……『円卓会議』、または参謀長の野心の顕(あらわ)れでしょう。

決断を急ぎすぎた節もある。

脱走兵の撤退はそれ以上に早かった訳であるが。

こちらも準備不足ではあるが、南米ゲリラに蜂起の用意があった。

鎮圧に……早くとも半年はかかるでしょう。

この間、大西洋連邦がバスティーユを捨てて、

我々まで敵に回すことは、まずないと言っていい。

今、我々がすべきは北アフリカ仕置の口実を元に、

大陸の連邦勢力の駆逐でありましょう。そこは間違いない。

アガレスと組む方が楽だったのは事実ですが、

ひとまず『明けの砂漠』を取り込めれば、大義名分にはなる」

「……脱走兵はどうなるのです?」

「北アフリカ制圧への派遣で、

本国が手薄になった時期を狙ったのでしょうが、所詮この程度。

貴方やヴァレフスキ司令が警戒した程の敵ではなかった訳です。

イベリア半島で動けば、西ユーラシア連邦が黙っていない。

東ユーラシア連邦とのアラスカを巡る衝突を考えれば、

西との関係悪化は大西洋連邦とて望むところではありますまい。

そうなれば、脱走兵の味方は、現状『アームズ』のみ。

非ロゴス系のウォルター・サトクリフが、

残党の盟主たるグレース・イスラフィールに従う理由もない」

そこまで話したところで、作業は終了したとみえて、

ノートパソコンを閉じたゴトウダ。

「つまりは……」

下唇をうっすら噛むバーテルソン。

「……アガレスを倒す。これが当面の目的となりましょう」

やや傾いた己の眼鏡をゆっくりと押し上げるゴトウダ。

「戦争は避けられぬと?」

「えぇ……ご覚悟ください。

貴方は間もなく、最高評議会議長として、

事に向かうのですから」

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