機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-08 青き闇の中に(7/7)

──『アンドリュー・バルトフェルド議長、辞任を表明』と、

一面にデカデカと掲載されたスペイン語の地元紙を、

テーブルに叩きつけるように置くと、

「……賭けでもしないか?ホルローギン」

なんて呑気そうに笑うマーシャル・オートクレール。

そこは『オバマ』にいた頃と大きくは変わらない、

探偵事務所風の部屋であって。

部屋の中央、回転する大きな風車の下にて、

テーブルを挟み、4つの椅子が並んでいる。

うちの2つ、互い違いに腰かけているのが、上からでは、

片や、持ち前の大きな額とオールバックという髪型により、

中央を境として、薄橙色と黒がほぼ綺麗に二分された円と見え。

片や、金色の髪が右に揺れて、ススキの穂に見えた。

何を隠そう、そこにいたのは、

前者がホルローギン・バータル、後者がノエル・ド・ケグ。

……いずれも、今更語ることはあるまいて。

他にといえば、入り口の方にもう1つ。

毛先だけを白く染め上げた、剣山かハリネズミがごとき頭がある。

頭の持ち主はトゥーッカ・マンニッコといい、

早い話がオートクレールのボディガードである。

「次の議長でも予想するおつもりですか?」

「……まあ、そんなところだ。オマエはどうなると思う?」

「そう……ですねぇ……」

背もたれに首を預ければ、

ホルローギンの後ろ髪は垂(しだ)れ柳の枝がごとく。

「イザーク・ジュール……は、まだ若いでしょうな。

出自と軍での功績、人気などでは上ですが。

比較的若く清廉なイメージのあるアリー・カシムか、

勢族出身の外交委員長ドロテ・カレームや、

あるいは『処刑人』クラウス・ゴトウダか……この辺りですかね」

「……3択とは潔くないヤツめ」

「慎重と、言ってくださいませ」

ガハガハと笑い合うオートクレール、ホルローギンの両者を、

やや冷ややかな表情で見るノエル。

ただ、

「まあ……どれも当たるまい」

オートクレールはあっさりとそう切り捨てた。

「カシムは日和見(ひよりみ)が過ぎる。その器ではない。

カレームには、ラクスと対立していたとの噂がある。

そんな女を議長に選ぶ議会でもなかろう。

ゴトウダは……決断力はあり、情報戦でも上手をいく技量はあるが、

何分『処刑人』たる負のイメージが拭えん。

10年前にシーゲル・クラインを暗殺させ、

7年前にはラクス暗殺を企てたとかいう男だぞ?

……盟主サマにビビってる議会のバカどもが選ぶものか」

「……そう、新聞には書いてありましたか?」

ホルローギンの発言に、オートクレールは上から新聞を叩き、

「これは隠しておくべきだったな」

なんて笑うのだ。

「……まあ、今の評議会は形骸化している。

実権はラクスと、あのORDERとかいう辺境伯どもの下。

さながら、ローマ帝国時代の元老院であろう。

人気取りに、どこぞの軍人を引っ張り出してくるかも分からん。

俺は……イザークだと思うがなぁ~~」

呑気そうに笑うオートクレールを他所に、ノエルが口を開く。

「マンニッコ……アンタ、脱走兵の中でも古株だったな?

会ったことあるか?クラウス・ゴトウダ」

マンニッコは首を縦には振らない。ただ、

「……私はありますよ」

と、ホルローギンが応じた。

「どんな人間です?ゴトウダは」

「あれを……どうと表現すれば、よろしいのでしょうか?

そもそも、私以上に彼に詳しい者が、

ルチアーノ長官やクールカ隊長の部下におりましたし、

詳しくはそちらにお伺いいただいた方がよいかと……」

そこまで語って、ノエルが不服そうなのを見るに、

「……強いて言うならば」

と話を続けるホルローギン。

「隙のない、抜け目のない人物ということでしょうな。

……彼ほどの重役ともなれば、それは必須なのでしょうけど。

現に『ナイルの神』……セベク・アガレスも、そんな人物でしたから」

そこまで聞いて、笑い声を上げたのはオートクレール。

「よく言うじゃないか?ホルローギン。会ったこともねぇのに」




さて、時差にして1時間。クロコディロポリスより。
コルドバやオランの夜が終わりを告げんと青く染まる頃、
エジプト文明の母たる大河ナイルから、ゆっくり朝日が昇っていく。
しかし、その部屋にまでは灯りは届かない。
そこはあまりにも暗い部屋。暗く、静かな部屋である。
強いて評するならば、エジプトの古きファラオの墓室のようで。
中央に大きなベッドがあり、右横には棚。
そして部屋の四隅にはガーゴイル風の魔除けとおぼしき像が生え、
棚の上にも拳銃──エンフィールド・リボルバーが置かれていた。
枕元には、シーツと同じぐらいに真っ白なティッシュペーパーが、
箱ごと薄いビニール製の膜に覆われて、そこにある。
カーテンはない。ドアも一方のみ。
さて、外で何か音が聞こえている。
何かを読み取っているであろう電子音が何度もして。
更に鍵を開けているのであろう、
ガチャリ、ガチャリ、ガチャリと3度音がした。
そこまでしてようやく、件の部屋のドアが開いた。
そうして開いた直後に、
ベッドの奥から枯れかけた木の枝がごとき細く白い腕がスッと延びて、
棚の上よりリボルバーを引き寄せる。
続いて、何者かの足が部屋の縁を越えて、床を踏むと同時、
「……誰だ!」
そう叫び声がベッドからしたかと思えば、
痩せこけた白髪の老人の身体が、ベッドより勢いよく飛び出した。
そのか細い両腕で、如何にも重たそうにリボルバーを抱え、
ドアより入ってきた相手……
カントリーメイド服に着込んだ、年の頃30ばかりの淑女に向け、
構えるのである。
されど、女性は何ら動じる様子はなく。
「……おはようございます。アガレス様」
などと平然として頭を下げるのであった。
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