機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-09 意志を貫く力(1/7)

翌朝のこと。そこは《フレイヤ》のモビルスーツデッキ。

俺は整備士トロ・サンタンデールと談笑していた。爽やかな朝だった。

どこからか流れてくる風は程好く冷えて心地良く、

モビルスーツの背丈よりも少し高いばかりの、

高所に配された円形の窓より、皮肉な程に透き通った青い空が見える。

わたあめのような白い雲も時折顔を出す。

並んだ窓の1つには、離れすぎていて詳しくは見えなかったが、

何らかの鳥が羽を休めているらしかった。

……まあ、だからといって、状況はけして良いとは言えないが。

そりゃ、高いところはよく見えるさ。

何せ、ここに並べられた連中に、真っ直ぐ立っているヤツなんて、

今は1機もいないのだから。

例えば《アビス》は、休日に寝転がる父親を彷彿とさせる、

腕を枕に脇腹が上を向く姿勢となっていて、

切り落とされた腕を、現在隣で復元しているところ。

また首を落とされた《ガイア》には、

あの犬みたいなモビルアーマーの頭を接合中。

首無しのボディが四つん這いで立っている姿など、

尻を向けられているようで気分のいいもんじゃない。

その他、顔を潰された《セイバー》の修理している角の方では、

ワイリー・スパーズを乗せたとおぼしき車イスを、

恐らくダスティン・ホークであろうという後ろ姿の男が押さえている。

さて、俺たちはというと、

隻腕の《ヴェスティージ》が地に横たえられた傍らにいた。

「これ……提案なんですけど」

サンタンデールの言葉。

「何だ?」

「……クトゥルフは、しばらく片腕だけにしませんか?」

クトゥルフ──お気付きとは思うが、あのビームガトリングのことで。

「……修理パーツが足りないのか?」

「いいえ……多少形状が変わっても構わないということでしたら、

ほぼ同機能の武装を再配備することは可能です。

ただ、元々、機体の17パーセント相当という超重量兵器です。

実証テストでも、

右腕部から本武装およびエネルギー供給器等々を排除した場合、

6.66パーセント程度の動作性能の向上が確認されていますし」

俺はポケットに突っ込んでいた右腕をゆっくり抜き取り、

空気中に頬杖をつくように、その手で右頬に触れた。

無言でそう動かした、俺の姿がいくらか恐ろしかったと見えて、

「いっ……いかがでしょう?」

そう、サンタンデールの態度に顕れる。

「……アイデアとしては、悪くないが」

直後、後方より聞こえた足音に振り返る。

すると、そこにはヴァイデフェルトの姿があって。

「おう」

と手を上げれば、彼女は頭を垂れた。

ヴァイデフェルトの立つデッキの入り口から、

《ヴェスティージ》が置かれた場所は比較的近く、

恐らくは10メートルとか。15メートルもはあるまい。

ただ、目的は俺ではないと見えて、

ヴァイデフェルトはこちらには寄って来なかった。

その際……あの『オバマ』での戦いのこともあるからか?

心なしか、彼女の表情は硬かった。

俺はすぐにサンタンデールの方に向き直り、

「アイデアとしては悪くないと思う。あとは使ってみないことにはな」

などと返すのだった……





──ジブラルタルより、その報が伝えられたのは、その日だった。
ラドクリフ大隊はオルランド・マッツィーニから、
トライン大隊はダグ・バーテルソンから、それぞれ命令を受けた。
まあ、その実……参謀長の指示だったとの噂も流れたが。
さて、その指示が、協力してティンドゥフを攻略せよとのこと。
なお、両大隊がオラン攻略に入った頃に、
ジブラルタルよりモーリタニア方面を経由して、
カロル・ヴァレフスキ傘下のイナバ・シゲル大隊が、
既にティンドゥフへ入っていた。
加えて、ティンドゥフより敗走してモロッコ領のウジダにいた、
これまたマッツィーニ傘下のバルドル・リュメル中隊が、
残存戦力にしてジズ5機、アルジェリア領のトレムセンに入っており、
これと合流の後、南下してティンドゥフへ向かう、
というのが両大隊に下された指示であった。
トレムセンからティンドゥフまで、
移動距離にして1000キロメートル強にもなる遠方であるが。
……その間、ようやく傘下のホーク小隊と合流したフレイヤ大隊は、
オランにて待機せよ、との命がヴィトー・ルカーニアより下っていた。

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