機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-01 悪夢の胎動(6/9)

「アナタは、自分が何であるかなんて……説明できるの?」

ビフロンスは笑う。なおも。

「アナタの大好きな、『ルバイヤート』の詩の中にも、

そんな話が出てくるでしょ?

どこから来て、どこへ行くのか。

死んだ後に世界はあるのかしらねぇ……天国とか、極楽とか、

地獄とか……フフッ」

「何がいいたい?」

「……何でしょうねぇ。一体」

ビフロンスが笑うに合わせて、その体が微かに揺れるのが分かる。

風にそよぐ柳の木みたいに。

「……死んだ人の声が聞こえたこと、見たこと、あるでしょ?」

顔を上げるビフロンス。

奇妙な目だった。最初は赤い目をしていると錯覚しかけたが、

実際は白っぽい銀色の瞳をしていた。

ただ、随分と血走っているもので、

どうにも、

その黒目(厳密には赤い目だが)と白目の位置が、

入れ替わってしまったような印象を受ける。

さて、そんな女の問いは死んだ人間に会ったことがあるか、

だったな。

……答えに困った。是も非も答えにくい。

それらしいことは1度、いや厳密には2度あった。

ただ、俺が以前見たものがそうであったかは分からない。

あるいは、白昼夢、都合のいい幻影であったかもしれない。

ただ、もし、本当に彼女が彼女だったなら……

それは、そういうことになる。

「不思議よね……」

俺の思考を遮るビフロンスの言葉。

「時々いるわ。アナタのような人が。

人は死に直面した瞬間、思うことは恐怖しかなくなるのに。

何故かしら。アナタは違う。アナタは思わない。

私はビフロンス。死者の墓に蝋燭(ろうそく)を灯す者。

人が死に触れる瞬間を何度も見てきた。死者を見てきた。

あの日、あのとき、アナタの生殺与奪は私にあった。

死に直面していた。

その意味を理解できない程、アナタは愚かでもないのに。

アナタは動じなかった。

死ぬのが怖くないの?いや、きっとそうじゃない。

でも半分くらいは……望んでいるんでしょ?死ぬことを」

ビフロンスの方から顔を逸らし、辺りを見渡した。

どこまでも白い世界。宇宙のように広く、限りが見えない空間。

見渡すといっても、見るものは何もない。

「いつまで……死に損ねる気?」

ビフロンスの腕がゆっくり伸びて、俺の右腕を掴んだ。

例の白い拳銃を握る腕を。

続いて、顎(あご)が外れてしまったのかと錯覚するばかりに、

口をデカデカと広げ、

ブラックホールも真っ青な暗闇に支配されたその口内に、

白き銃口を押し込んだ。

カエルを丸呑みにするヘビのように。

次に少しばかり口を狭め、銃身を軽く噛む。

そんな状態でなおも、その口角は上がっている。笑っている。

やがてその手を、拳銃を握る俺の手に重ねて、

そこから一言、

「……お先に」

と、口にものが入っているにしては綺麗な発音で告げると、

引き金に当てられた、俺の人差し指を折り曲げさせ、押し出した。

そのまま、引き金が引けるように。

そうしたらどうなるかなんてのは、

わざわざ語らなくても分かるだろう。

当然のように放たれた弾丸が口の中を通り過ぎて、

後頭部を貫通、勢いそのままにどこかへと飛んでいった。

薬莢の落ちる乾いた音が足下にて響き、

だらしなく俺の手に倒れかかる女の体は、

前からも後ろからも赤黒くベトベトな血を垂らすばかり。

明らかに死んでいる。それは疑いようがない。

少なくとも見た目からは。

だのに、

「……下手な芝居だな」

そんな風な言葉が俺の口をついて出た。

そして、

「……ンフフフフッ」

というビフロンスの笑い声。

いや、文字にすると説明しにくいが、

もっと例えば小さな足音のような、低い音として聞こえてきた。

クネクネと身を捩(よじ)りながら、銃口を吐き出すビフロンス。

そして、陸に打ち上げられたクジラみたいに、

顔から地面へと倒れていった。

何が不気味って、ビフロンスはなおも笑っていること。

俺は……ひとまず、拳銃を体の真ん中辺りに持ってきた。

左手を添える。その後、腕を胸の辺りまで持ち上げ、

そこから改めて下げた……ビフロンスを狙って。

後はもう一度、今度は自分の意思で、引き金を引けばいいだけ。

それで終わる……ような気がした。

約1秒後、ビフロンスの上半身が持ち上げる。アシカのように。

血が滝のように流れる口を再び広げ、左手を前に突き出す。

そして、

「……ヒャアアアアアア!」

なんていうケダモノのような叫び声を上げながら、

飛びかかるビフロンスを、俺は…… 

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