機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「要するに、私にクールカ隊長を止めろと……命令される訳ですか?」
「いえ、そういう意味では……」
慌てて訂正すれば、ホルローギンは意地悪に笑った。
「いえいえ……すみませんね。あまりにも大真面目におっしゃるから、
少しからかってみたかったんですよ。
別に怒ってはいませんから。ご安心くださいな」
そう言い、ゆっくり握っていたボールペンをテーブルに置いた。
「しかし、まあ……それは無理でしょうな」
黒い皮製とおぼしき回転椅子の背もたれへ、
ゆっくり背中を押し当てるホルローギン。
「……馬鹿は死ぬまで治らない、と申しますし」
ボールペンを握っていた右手が、今度は自身の眉を掻いている。
「隊長は馬鹿ではないと思いますが!」
祈るように合わせたリョウの指先に力が入る。
ホルローギンも面食らった様子で、目を見開く。
そんな相手に我を通す程は強くないのがリョウで、すぐに、
「偉そうに言って……すみません」
と、そう頭を垂れた。
ただ、彼女が次にその頭を恐る恐る上げたときには、
「随分……隊長を信頼されているようで」
ホルローギンはそう笑いかけていた。
「まあ、だからこそ……というのがアナタの気持ちでしょうが」
手を下ろしたホルローギン。胸の前にて2本の腕を交差させる。
「……グナイゼナウ攻略は、クールカ隊長にとっても悲願。
せめて、そこまでは自分に……と言って譲りますまい」
「たとえ、死ぬことになっても……ですか?」
「んーーー」
ホルローギンの首がやや縦に傾けられた。
「クールカ隊長を呼び止めて、そうと問うなら彼は……
そうですね。戦場に立つ時点で、もうリスクはあるとか何とか、
言うでしょうなぁ」
「……そんな」
頭を下げたリョウの顔に、暗い影が覆う。
「……彼は焦り過ぎているのですよ。兎にも、角にも。
アーモリー・ワン襲撃も、予定では6、7月の予定だったものを、
こんなに早めてしまった。病が発覚したばかりに、ね。
その上、最期まで己の病を隠し通すおつもりときている。
お陰で私は……弁解に困りましたよ。ハハハ」
そう笑ってみせど、リョウの表情は曇ったままで。
「一番苦しいのは、クールカ隊長ご自身でしょう。当然です。
病の苦しみ、周囲の不理解、その上、娘さんとも会えないのだから」
このホルローギンの『娘さん』というフレーズに、
リョウが反応する。
「……ご存知なかったので?」
「いえ……ただ、あの……」
目を右に逸らして、考えを巡らすこと数秒。
「秘書の方が、
クールカ隊長を軍務を蔑ろにして、娘と会うような男だとか……
おっしゃっていたのを、思い出して」
「そんなこと……おっしゃっていましたっけ?秘書官殿は」
「あっ……いえ、ホルローギンさんとのお話が終わった後で、
そう言われまして……」
ホルローギン2度目の瞠目。そして、今度は少しニヤけた。
「いえ……内容自体は私の失言なのですがね……
どうにも嘘が下手だ。私という男は……
まあ、しかし、そうでした、そうでした。
あのとき、私たちに知らせてくれたのは、君でしたね。リョウ」
納得の表現として、ポンと手を打つやり方があるが、
にしても、本当にやるヤツがいるとは……
ホルローギンは顔を綻ばせたままに、2、3度手を打った。
「リョウ……アナタ、ひとつ。頼まれてくれませんか?」