機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
半分には満たない程度に開かれた窓より、
入ってきた海風が、腰に下げた軍刀を揺らしたとき、
持ち主──フェイ・デ・カイパーは《フレイヤ》の会議室にいた。
陽光を反射して銀に輝くテーブルの上の鳥籠の中、翼をばたつかせる、
白い鸚鵡(おうむ)にライチの実を食わせながら、
柔和な笑顔を見せていた。
それをドアの小さな鍵穴の中より見るや、
「あの人、もっとお堅いイメージだったんすけど」
なんて小声で漏らしつつ、1歩引き下がるアレハンドロ。
「どれどれェ……」
代わって少し猫背になり、目を鍵穴に寄せるワイリー。
「あんまり、無理しないでくださいよォ……」
と車椅子の後ろから気遣うダスティンに、
「まあ、まあ」
などと言い訳しながら。
「何でぇ、舌にピアスなんかして、強面(こわもて)って感じなのに、
意外と可愛い顔して笑うじゃねぇか。えぇ~」
とか何とかワイリーが言っているうちに、足音が近付いてきた。
話し声と一緒に。
「どういうことよ。補佐官様直々の御成りなんてさ。
大体……来るなら来ると、連絡寄越してくれれば、
こちらも迎えを出すのにさぁ。感じ悪いじゃない。もう……」
アルメイダの声である。角になって見えない位置にいるのだが、
それでもアレハンドロが振り返って、声の方を見た。
「それだけ、重要な任務ということでしょう。
電波に乗せると盗聴の恐れもありますし、
補佐官程の方がいらっしゃるとなれば、周囲の目も向きますから」
そう答えるはハビエルの声。やはり見えないが。
アレハンドロに続いて、ダスティンがそちらを向いた。
やはり見えないが。
「だったら、もっと無名の人間を寄越すとかさぁ……」
「伝言役として、信頼できないと判断されたのでは?」
「何よ、それぇ……」
そんなところで、ようやく男3人の視界に入った。勿論逆も然り。
「アンタら……何してんの?」
と割に大きな声で呼んでしまうのがアルメイダ。それを、
「まあ……お昼が近いですからねぇ」
と誤魔化(ごまか)すハビエル。
なお、女2人からして、会議室より1つ手前の部屋が食堂である。
ハァ?と言いたげな顔で振り返るアルメイダを、
まあまあと宥(なだ)めてハビエルは、
指でドアを差し、次に地面を差すという動作でもって、
中にフェイがいるのか、男らに確認する。
ワイリーとダスティンは意味が分からないらしかったが、
勘が鋭いアレハンドロが反応した。うんと頷(うなづ)いて。
わざと足音を立てて歩いてきてアレハンドロは、
「……朝が遅かったんすよ。俺たち寝坊しちゃって」
と答えつつ、振り返ってダスティンを見る。
慌ててダスティンも、
「あぁ……そうだね」
なんて空返事を返す訳であって。
続いてダスティン、何を思ったのか、車椅子を抱えると、
「おおっ」
と声を上げたワイリーに、
指を自身の口に当てて静かにと促(うなが)し、
それから、そのまま、足音を立てないようゆっくりと、
食堂の部屋の前まで運んだ。
「……今、食べてきたところですもんね?ワイリーさん」
なんて白々しい台詞を吐くダスティンだが、
芝居は下手と見えて、ぎこちない。
合わせるワイリーも、
「……おおっ!」
そう声が裏返り……そんなとき、突然、会議室のドアが。
振り返る一同。当然、そこにはフェイの姿があり。
「アルメイダ大隊長に、ハビエル副館長ですね?
突然の来訪、お許しください。ひとまず、話は中で」
と未だ遠方の両人に言うだけ言って、部屋に戻る素振りを見せた。
ホッとしたのも束の間、
「御二人のみで十分ですので……
覗き趣味の皆様にはお引き取り願います」
と言い残されてしまった。
「……やっぱバレてらぁ」
ワイリーが苦笑しつつ、アレハンドロ、ダスティン、ハビエルの順で、
周囲の面々と顔を合わせた。
ズケズケと進み、アレハンドロに退けと鼻を鳴らして合図し、
先にドアの中へと入っていくはアルメイダ。
他方、ハビエルはというと、退いたところのアレハンドロに歩み寄る。
「補佐官さんは、中で何してたの?」
「鳥に餌(えさ)やってました。楽しそうに」
ハビエル、これにはかける言葉を失う。
「……わかった。ありがとう」
アレハンドロの肩をポンと叩いて、彼女もまた、中へ入って行った。
……さあ、男連中はそれぞれが顔を見合わせる。そして、
「セクハラって言われるよりは、マシだよな?」
ワイリーのそんな付け加えを聞いて、うんと頷く残り2人なのだった。
「アーモリー・ワンのときといい、お疲れ様ですね。カイパー補佐官」
アルメイダの横に腰を下ろしつつ話した、
そんなハビエルの社交辞令はフェイの耳には届かないと見えて。
「……出来ることならアスカ副長にもお立ち会いいただきたかったが、
私にも時間がないもので。単刀直入に説明させていいただく」
フェイにそう言われれば、愛想笑いを浮かべていたハビエルの顔も、
真剣になるのは必定で。
「《フレイヤ》には、海路から迂回してリビアに入り、
セベク・アガレスが長女ネイトが守る拠点を叩いてもらいます」