機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-10 忍び寄る影(1/7)

「……フレイヤ大隊のみで、攻略に当たれと?」

ハビエルは、怒りを上下の歯で文字通りに噛み殺し、

噛み合わせた口で辛うじて笑みのようなものを見せていたが、

そんな彼女に一切憂慮することなく、フェイは言い放った。

「少数でなければ、奇襲は成立しないもの」

フェイの口の中より数瞬覗いた舌先についたピアスが、

荒波に揉まれる魚のように見えていた。

「……よろしいですか?」

やや前屈みになるハビエルに対して、少しは察したと見えて、

「どうぞ」

と、左側、緑色した髪の耳回りをかきあげながら。

ハビエルはゆっくり背もたれに身を倒した。

わざとらしい笑みも止めて、必死に微笑を顔に貼り付ける。

「現代戦において……奇襲作戦の成功率が如何(いか)に低いか、

お気付きですよね?

……アーモリー・ワンでザフト脱走兵側が被(こうむ)った損害、

そして『オバマ』攻略戦でルカーニア艦隊を襲った攻撃。

どちらを見ても、

部隊にとって最善の作戦とは言えないように思われますが」

「……そうですね。奇襲というやり方はよくないかもしれない」

あっさり引き下がるフェイを、

アルメイダは退屈そうに見つめていた。しかし。

「大隊ひとつで都市ひとつを攻撃するという作戦構造そのものは、

けして無謀ではありません。

事実、リュメル中隊はアナタ方より少数でもって、

任務に当たっていました」

……リュメル中隊は負けたじゃないかと、

詰問したいハビエルではあったが、ここでは一度口をつぐむ。

「……今回の任務では、

皆さんと交替で一時オランを離脱していたファンク小隊と、

アデリー小隊の残存戦力から戦艦1隻とモビルスーツ3機、

これらをフレイヤ大隊の与力として派遣します。

アルジェリア方面に兵を割き、手薄となったリビア攻略においては、

十分な兵力と司令はお考えですが」

見合わせるハビエルとアルメイダ。

それは『司令』、すなわちルカーニアの名を提示された瞬間だった。

瞬時に察知する。言葉の意味するところを。

いち大隊長、いち副艦長に過ぎない彼女らが、

否定することの出来ない言葉の重さを。

「……了解しました」

とは、アルメイダの回答。

「ご希望に沿えるよう、善処致します」

深々とお辞儀するアルメイダに続いて、

ハビエルも素早く頭(こうべ)を垂れた。

自然と目を閉じるアルメイダに対し、

ハビエルは不服とばかりに目を見開き、足下を睨み付けている。

「……ご武運を」

一礼。

喉が捻(ねじ)れるような低く、掠れた声でもって応じたフェイ。

ただ、その横から、

「ヒドイヒトォ……」

とか何とか聞こえ出せば、下がった頭が跳ね起きる。

特に反応が早かったのがアルメイダ。次はハビエル。

フェイは……驚いたというよりは呆れたといった表情でもって、

ゆっくり顔を上げ、ゆっくり目を閉じた。

声の主は鸚鵡。籠の中の白き鸚鵡である。

「ヒドイヒトォ、ヒドイヒトォォ!」

カタコトで話す外国人のような発音で連呼する鸚鵡。

翼をバタバタさせ、細長い羽根をポタポタと落としていく。

「……ヒドイヒトォォォ!」

鸚鵡は吠える。フェイの横顔を見つめながら。

笑いを誤魔化す形で、咳き込む素振りを見せたアルメイダ。

対してハビエルは呆然として、ただ見つめることしか、しなかった。




「……ヒドイヒトォ~、だって」
休憩室の自動販売機の前に立つハビエルの顔が、
ガラス戸へ、奥の飲料に重なる形で浮かんでいた。
奇しくも、羽ばたく鸚鵡を見つめていた時と同じ、
どこか草臥(くたびれ)れたような、疲れた表情でもって。
「何で鸚鵡を連れてたんでしょうか?」
ハビエルの背後、椅子に腰かけたヴァイデフェルトが問う。
「対策のひとつらしいわ。何でもね。
そのまま入国すると、バレる可能性が高いから……
理由付けとして、鸚鵡の輸入ってことにしたらしいわ。
多分、パスポートとかも偽造してんでしょうねぇ」
「……そうですか」
ヴァイデフェルトはそう語りながら、
両手で大切そうに抱く缶コーヒーに口をつけるのだった。
時折、向かいの方を気遣う素振りを見せながら。
「何だかって、感じよねぇ……」
缶コーヒーがボトッと落ち、それをスッと取り上げ、
振り返ったハビエル。
「……そういうの、一応相談してもらいたいよねぇ」
なんて首を軽く振りながら、ハビエルはテーブルへ。
丁度ヴァイデフェルトの向かい側へと腰かけた。
隣にはもう1席あり、ヴァイデフェルトは左斜め前にいる。
そして、横には……
「そう思わない?ダイ」
ダイは項垂(うなだ)れていた。金色の髪をモップみたいに垂らして。
「……ダイくん?」
心配そうに見つめるヴァイデフェルト。
対して顔を上げたダイの視線は、
ヴァイデフェルトにではなく、ハビエルを見ていて……
「少し……いいですか?ハビエル副艦長」
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