機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「……フレイヤ大隊のみで、攻略に当たれと?」
ハビエルは、怒りを上下の歯で文字通りに噛み殺し、
噛み合わせた口で辛うじて笑みのようなものを見せていたが、
そんな彼女に一切憂慮することなく、フェイは言い放った。
「少数でなければ、奇襲は成立しないもの」
フェイの口の中より数瞬覗いた舌先についたピアスが、
荒波に揉まれる魚のように見えていた。
「……よろしいですか?」
やや前屈みになるハビエルに対して、少しは察したと見えて、
「どうぞ」
と、左側、緑色した髪の耳回りをかきあげながら。
ハビエルはゆっくり背もたれに身を倒した。
わざとらしい笑みも止めて、必死に微笑を顔に貼り付ける。
「現代戦において……奇襲作戦の成功率が如何(いか)に低いか、
お気付きですよね?
……アーモリー・ワンでザフト脱走兵側が被(こうむ)った損害、
そして『オバマ』攻略戦でルカーニア艦隊を襲った攻撃。
どちらを見ても、
部隊にとって最善の作戦とは言えないように思われますが」
「……そうですね。奇襲というやり方はよくないかもしれない」
あっさり引き下がるフェイを、
アルメイダは退屈そうに見つめていた。しかし。
「大隊ひとつで都市ひとつを攻撃するという作戦構造そのものは、
けして無謀ではありません。
事実、リュメル中隊はアナタ方より少数でもって、
任務に当たっていました」
……リュメル中隊は負けたじゃないかと、
詰問したいハビエルではあったが、ここでは一度口をつぐむ。
「……今回の任務では、
皆さんと交替で一時オランを離脱していたファンク小隊と、
アデリー小隊の残存戦力から戦艦1隻とモビルスーツ3機、
これらをフレイヤ大隊の与力として派遣します。
アルジェリア方面に兵を割き、手薄となったリビア攻略においては、
十分な兵力と司令はお考えですが」
見合わせるハビエルとアルメイダ。
それは『司令』、すなわちルカーニアの名を提示された瞬間だった。
瞬時に察知する。言葉の意味するところを。
いち大隊長、いち副艦長に過ぎない彼女らが、
否定することの出来ない言葉の重さを。
「……了解しました」
とは、アルメイダの回答。
「ご希望に沿えるよう、善処致します」
深々とお辞儀するアルメイダに続いて、
ハビエルも素早く頭(こうべ)を垂れた。
自然と目を閉じるアルメイダに対し、
ハビエルは不服とばかりに目を見開き、足下を睨み付けている。
「……ご武運を」
一礼。
喉が捻(ねじ)れるような低く、掠れた声でもって応じたフェイ。
ただ、その横から、
「ヒドイヒトォ……」
とか何とか聞こえ出せば、下がった頭が跳ね起きる。
特に反応が早かったのがアルメイダ。次はハビエル。
フェイは……驚いたというよりは呆れたといった表情でもって、
ゆっくり顔を上げ、ゆっくり目を閉じた。
声の主は鸚鵡。籠の中の白き鸚鵡である。
「ヒドイヒトォ、ヒドイヒトォォ!」
カタコトで話す外国人のような発音で連呼する鸚鵡。
翼をバタバタさせ、細長い羽根をポタポタと落としていく。
「……ヒドイヒトォォォ!」
鸚鵡は吠える。フェイの横顔を見つめながら。
笑いを誤魔化す形で、咳き込む素振りを見せたアルメイダ。
対してハビエルは呆然として、ただ見つめることしか、しなかった。
「……ヒドイヒトォ~、だって」
休憩室の自動販売機の前に立つハビエルの顔が、
ガラス戸へ、奥の飲料に重なる形で浮かんでいた。
奇しくも、羽ばたく鸚鵡を見つめていた時と同じ、
どこか草臥(くたびれ)れたような、疲れた表情でもって。
「何で鸚鵡を連れてたんでしょうか?」
ハビエルの背後、椅子に腰かけたヴァイデフェルトが問う。
「対策のひとつらしいわ。何でもね。
そのまま入国すると、バレる可能性が高いから……
理由付けとして、鸚鵡の輸入ってことにしたらしいわ。
多分、パスポートとかも偽造してんでしょうねぇ」
「……そうですか」
ヴァイデフェルトはそう語りながら、
両手で大切そうに抱く缶コーヒーに口をつけるのだった。
時折、向かいの方を気遣う素振りを見せながら。
「何だかって、感じよねぇ……」
缶コーヒーがボトッと落ち、それをスッと取り上げ、
振り返ったハビエル。
「……そういうの、一応相談してもらいたいよねぇ」
なんて首を軽く振りながら、ハビエルはテーブルへ。
丁度ヴァイデフェルトの向かい側へと腰かけた。
隣にはもう1席あり、ヴァイデフェルトは左斜め前にいる。
そして、横には……
「そう思わない?ダイ」
ダイは項垂(うなだ)れていた。金色の髪をモップみたいに垂らして。
「……ダイくん?」
心配そうに見つめるヴァイデフェルト。
対して顔を上げたダイの視線は、
ヴァイデフェルトにではなく、ハビエルを見ていて……
「少し……いいですか?ハビエル副艦長」