機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-10 忍び寄る影(3/7)

事実、店から戦艦まで、そう距離はなくて。

何も考えずにぼんやりする時間も、少しなら悪くない。

ワイヤレスのイヤホンをしていた。

申し訳程度に髪の下に耳ごと隠しながら。

聞いていたのは、地元で配信しているネットラジオ。

フランス語らしく、ほとんど何を言っているかは分からなかった。

まあ、人なんかほとんど歩いていない街だ。

怖いぐらいに静まり返った中を歩くよりはいくらかマシ。

音楽でもよかったが、生憎そっちは疎(うと)くてな。

……という訳で適当に聞いていたが、せいぜい意味が取れたのは、

パーソナリティの名前らしき『アンジェリカ』ぐらい。

「……よりによって」

と、俺は思ったのか?言ったのか?証言者がいないから分からない。

なおラジオは二人構成だったのだが、

相手の名前までは分からなかった。

これなら、ダスティンのヤツにバイクを借りるべきだったか?

いや、もうずっと乗ってないんだ。

雨で滑る道なんか走ったなら、どうなることやら……

そう考えているうちに、あの気味の悪い雨が更に勢いを弱めていく。

目的地まで着いたときには、

もう閉まり切らない蛇口からポタポタ水滴が漏れていくような、

小雨(こさめ)も小雨となっていて……正直、気に食わなかった。

自分ではそこまで濡れた自覚はなく、

室内に入ると、進む度に聞こえる滴る音へ驚かされた。

「ズブ濡れじゃないですか!副長」

たまたま通りかかったパーディが俺を呼び止める。

「タオル取ってきます。ひとまず、これ使ってください」

なんて言い残して取って返したパーディ。

さて、彼女がひとまずと置いていったのは、なんとハンカチ。

それも派手めな彼女のイメージに反して、

ワッペンが目を引く、幼稚という意味に可愛いもので。

試しに広げてみたが、片手ぐらいのサイズしかない。

しかも、ワッペンの柄はステラ……星である。

「……気が利いてるよ。まったく」

我ながら無駄に手際よくハンカチを折り畳んだ。

どれぐらいかというと、

「慣れてますねぇ」

なんて後ろで見ていたアレハンドロに言われるぐらい。

「……副長って、意外と女子力高い?」

「そりゃ、俺は14で単身プラントに渡ってきたからな。

大抵のことは自分でやらなきゃ、誰もやってくれなかったよ」

「大変すねぇ」

……アレハンドロの物言いに、違和感を覚えて振り返る。

「……オマエも移民だよな?」

「はい」

……そこから先は、デリケートな部分ゆえ、言葉を詰まらせた。

だが、アレハンドロが人を小バカにしたように、

体を捻って笑うから、俺もふざけて肘でこついた。

「パワハラだー」

「だったらオマエは不敬罪だ」

「いつから俺の親になったんすか!副長!」

「父兄(ふけい)て言いたいのか?……くだらねぇ」

そんな漫談を繰り広げた辺りで、パーディが再登場。

タオルを渡すのだが、場の雰囲気に乗ったのか、

「どうぞ」

と俺に投げつけるのである。コントみたいに。

頭に乗ったタオルに視界を遮られ、すぐには状況を理解できなかった。

しかし、

「アハハ」

なんて呑気に笑うアレハンドロの声に、

おおよその状況を察して、タオルを下に引きながら振り返れば、

パーディが半笑いで俺に頭を下げていた。

「……上司へのイタズラってのは、何ハラになるんだろうなぁ」

「ウラハラ?」

「やかましい」

笑って言うアレハンドロを咎めれば、

「フフッ」

と背後でパーディも笑う始末。

振り返れば、一応頭を2、3度軽く下げて謝る素振りは見せるが。

「俺はハビエルみたいに小言言う気はないが……」

パーディに右手でハンカチを返し、左手を動かし、

適当に髪を拭く。

「……今晩には、ここを発つんだぞ?」

右手もタオルに添えた。

「まあ、いいじゃないっすか。ピンと張り詰めてんのも、

息苦しいですって。脱力も大事っすよ?リラックス、リラックス」

「……オマエに言われると腹立つな」

「タツハラ?」

アレハンドロの足を踏んでやった。

「背に腹は変えられないって言いますし、ねぇ……」

「パーディ……多分だが、言葉の意味、間違ってるぞ?」

「え…………人の性格って、変えようとしても変えられない、

みたいな意味じゃなくてですか?」

訂正しようと振り向いた瞬間、

踏まれた足を抱くように屈んだアレハンドロがボソリ、

「……セニハラ」

と言った為、俺の動きは止められた。

「まあ、パーディの指摘自体は間違いじゃないってことで……」

ゆっくり上体を起こすアレハンドロ。

「……初志貫徹っすよ。副長。やりましょ?模擬戦。

今日こそ、勝ちますから!!」

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