機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-10 忍び寄る影(4/7)

紫色のパイロットスーツを着る片手間に、腰を下ろすは、

夜間に飛び交う蛍火がごとく、疎らな灯りが照らす、

ほの暗いコクピット。

我ながら慣れたもので、左手だけでヘルメットを頭に被せつつ、

キーボードを叩いて操作する。

前が見えなくなるのは、ヘルメットの縁に目が重なる一瞬だけ。

とはいえ、その一瞬で、画面は切り替わったのだが。

「……フィールドは?」

俺のそんな問いに、アレハンドロが食い気味で即答する。

『市街地で』

と。あまりの速さに、こちらの手が一度止まった。

「……わかった」

気持ち呆れ気味といった語調で告げ、手を動かした。

2、3必要事項を入力した後、

『──これより、

《ZGMF-X40A1 ヴェスティージ》の模擬演習を開始します』

とのアナウンスを聞いた。

やがて四方の様子が切り替わり、市街地が目前に現れる。

一口に市街地といっても、街並みは違う。

前に、《インパルス》や《デスティニー》と戦ったときは、

アーモリー・ワンの様子を反映していたから、見覚えもあった。

だが、今度は違う。

衛星が捉えたとかいう、トリポリ市街地の映像であるから。

(以前、人工衛星の存在があるから、

地上における戦艦・モビルスーツの動向は、

他国にも観察されているのでは?と上に指摘したヤツがあり、

現時点ではザフトしか人工衛星を有していないことから、

その心配はないとか何とか説明されたそうだが、果たして?)

……そんなことを考えているうちに、落とし穴に嵌(は)まったように、

急に足場が消えて体が落ちていき、

そのうちに《ヴェスティージ》の両足がゆっくり地に降りた。

軽く跳ねて、重量を確認する。なるほど、確かに軽くなった。

揺れに合わせて、体が1cmぐらい浮き上がる感じがした。

「コイツはいい。肩凝りが治ったみてぇだ」

『……年は取りたくないっすねぇ』

アレハンドロの声が聞こえた。しかし、《アビス》の姿は見えない。

「年寄り扱いすんなよ。そこまでは違わねぇっての」

そう話しながら、レーダーを確認する。

レーダーに表示された《アビス》は、

どうやら数百メートル先のビルの陰に隠れているらしい。

「まあ、確かに……」

ビームライフルに手を伸ばす。

さあ、不意にビルの陰から現れた銃口。いや、砲口というべきか。

あの太さはマグヌス・バラエーナと見て間違いない。

「……オマエほど、青臭くはないけどな」

放たれた赤く太いビームの川が、空に向けて流れた。

目標は、俺だったのだろうが、スナイプするには隙がデカすぎる。

右にあったビルを3棟ばかり貫通していくのを横目に見つつ回避し、

動いたと同時にライフルの引き金を引いた。

あっさり当たった。1棟のビルを貫き、隠れていた《アビス》の足へ。

砲の射角が派手に逸れ、目前にあったビルを、

刀の試し切りで竹を切るみたいに一直線に切断して、

それから空に雷がごとく飛んでいき、やがては消えていった。

「……今度は勝てるんじゃなかったのか?アレハンドロ」

そう雑に挑発しつつ、俺は機体をゆっくり歩かせていた。




……足が止まる。
ドアを開いて、その縁をノエルの右足が越えたときだった。
数十メートル先、ドアの前に男が立っていた。
小さく見えた。目深に被ったソフト帽に隠れ、表情は見えない。
肘の上まで捲(まく)られた白シャツの袖の下に見える、
大木の枝を思わせる小麦色の腕。
「……着いて来い」
ノエルは振り向くことはせず、口だけでそうリョウへ伝えた。
リョウには、彼がわざわざそう宣誓する意図が分からなかった。
返答もせず、後に続く。
派手に響いた足音、しかし相手に動かない。
そこから5秒間、ノエルは額の汗さえ拭うことなく、進んだ。
およそ3メートルまで近付いたとき、
梟(ふくろう)のように微動だにしなかった男が動いた。
彼の左手が、
サスペンダーに付随(ふずい)する右のホルスターへ伸びたとき、
ノエルの体は仰(の)け反っていた。
汗が毛先を伝い、リョウの革靴へと滴り落ちた。
「……ノエルさん?」
頭に乗ったハンチング帽が右にずれるのも気に止めず、
脇の下の隙間から前の状況を見たとき、
男の拳銃──S&W M500の銃口が眉間に触れていた。
「答えてもらおうか。名前と肩書、ここに来た目的。
……俺がここで引き金を引かずに済む理由を」
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