機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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俺は……さっと左腕で払った。
意識は戦場へと、コクピットの中へと戻っていた。
俺の手が弾いたのは、ビフロンスの身体などではなく、
残った1基のポッドに過ぎなかった。
ふと前を見れば、カオスの残骸。
人間でいう口にあたる部分から、
コクピットがあったであろう胸部にかけて、一筋の穴が空いている。
きっとそこを俺のビームライフルが撃ち抜いたのだろう。
カオスは既に活動を停止している。
パイロットの死体は確認できないが、
きっとビームに焼かれて死んだことだろう。
……ひとまず、1度、俺は胸を撫で下ろした。


PHASE-01 悪夢の胎動(7/9)

内部まで侵攻した、魚群のように群れる《ジズ》の集団。

それを真っ先に襲ったのは、実に何でもない、ひとつの爆竹だった。

黒い釜みたいな小さなそれが、一瞬光ったかと思うと、

内側からヨーヨーの糸みたいにビームを伸ばし始める。

それも四方八方に。

比較的前方に立っていた個体が、

それぞれ腕や足や……節々を、このビームの糸に切り裂かれたが、

流石にそれで死ぬ者はない。

ただ、突然の爆発に、群れの足並みが一時止まった。

それは不味かった。

ビルの陰に隠れるように飛んでいた、この爆竹の持ち主が顔を出す。

両手に、大型のビームマシンガンを2丁、

まるで子供でも抱き抱えるみたいに持った、

《ハイザック》のカスタムモデル。

保護色とばかりに灰色をしていたボディが姿を現しても、

まず視認するまでに時間がかかる。

レーダーの反応に、

『何か……いるのか?』

なんて間抜けた台詞を吐いたある《ジズ》のパイロットが、

『あっ』

と気付いたときには、もう遅い。蜂の巣になっていた。

《ザク》連中が使っていたものよりもいくらも口径がデカく、

また手数も多いと見える両銃が、

一斉に降り注げば、空中で動きを止めた、この間抜けどもを、

1度に7、8機は破壊してみせた。

『……クソが!』

と反撃に出られれば、どこに仕掛けてあったのか、

丸い盾がワイヤーに釣られて、

左右ともに数十メートル離れた位置から近付いてきて、

その表面にあった、最早お馴染みとなったビーム炸裂型のミサイルを、

サイズこそ鼻くそみたいなもんだが、それをもう40、50はばら蒔き、

《ジズ》数機を落としつつ、その視界を遮ってみせる。

《ジズ》のパイロットらも、勿論、その間に棒立ちだった訳ではない。

先陣を切った一人たるアントンなんかも、

レーダーに表示される座標を頼りに砲撃を試みるが、

ただでさえ動く的を狙うのだって難しいというに、

直接見えていないものに当てられる訳もなく。

「……クソがッ」

怒鳴るというより、噛み締めるように。そう漏らした。

レーダーに表示される敵は、何も彼らだけではなく。

文字通りの横槍。レーダー上から見れば、左下の端の方に映っていた、

敵機の砲撃が自身と、その真後ろにいたジズの間を通り抜け、

右斜め後ろにいたヤツを撃ち殺してしまった。

ここにきて、《ジズ》の欠点……いや、密集体系の欠点が顕著となり始める。

とはいえ、ルカーニアも無策ではなく……

「ハリネズミを、前へ!」

アントンが力強く、旗艦『ベルフェゴル』に呼び掛けた。




大西洋連邦が有する宇宙要塞『オバマ』を襲ったザフト兵の目的は、
言うまでもなく、
指導者マーシャル・オートクレールの捕縛ないしは殺害。
では、当の本人はその頃どうしていたかと言えば、
日の当たる店のテラス席で、麦わら帽子を目深に被り、軽装で、
呑気そうにTボーン・ステーキなんて食ってやがる。
「……やけに、騒がしいな」
なんてほざけながら。
横ではラジオが、
『速報です……うっ……宇宙要塞「オバマ」に、
ザフト兵と思われるモビルスーツ部隊の出現を確認しました』
男性とおぼしき、そのキャスターの声というのは、
妙に上擦ったしゃべり方をしており、
恐怖に震えた顔が目に浮かぶようであった。
そんな呼吸の乱れたキャスターが伝えているというに、 
オートクレールに一切の動じる様子はなく、
ステーキの横に置かれていた、
淡いオレンジ色のスープをスプーンで口に運んでいる。
「ホォ……コイツはトマトのスープか。たまげたなぁ……」
そう笑うオートクレールに、
傍らに経つギャルソンらしき女性が説明する。
「はい。サルモレホという、トマトとパンのピューレでございます」
「……美味(びみ)だ」
「ありがとうございます」
一礼するギャルソンの横で、スープの上に乗った一切れのハムが、
オートクレールの口に運ばれた。
この間、ハムはスプーンから大きくはみ出しており、
そして口の手前で遂に落ちてしまったのだが、
オートクレールは、少々下品だが、舌を突き出して、
これを上手く受け止め、口へ喉(のど)へと送った。
「……いい。最高だ」
そう笑うオートクレールの表情は、
間もなく鳴り響いた着信音によって、曇らされることとなる。
曲は『O Toi La Vie』。シャンソンの名曲である。
画面にも通知相手の名前は出ているが、音楽の方でもう気付いた。
「……ノエルめ」
呆れた調子で吐き捨てるように伝えてから、
持ち前のスマートフォンを耳にあてた。
「えらい騒ぎだな。ただの『紛争』だろうに?」
開口一番そう告げるオートクレールに、
電話先のノエルも一言で返した。
『……「戦争」です』
と。
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