機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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1時間後、食堂にて、
「……そこまではよかったんすけどねぇ」
苦笑いがちに、シチューを口に運ぶアレハンドロの姿があった。
「結局、負けちゃったんだ?」
向かいで頬杖をつき、嫌みっぽく笑うハビエル。
「はい……いやぁ~、やっぱ副長強くって」
そうは言いつつも、どこか嬉しそうなアレハンドロに、
ハビエルの表情も優しげなものへと転じる。
ただ、続く、
「……ある意味、よかったっすよ。信じていいんだ、って気分というか。
これで、副長の強さを再確認できた、みたいな感じで」
というアレハンドロのうつ向きがちの一言には、
ハビエルも複雑な表情を覗かせる。
「ハードルって、高い分だけヤル気でるじゃないすか?」
そう悪童のように笑うアレハンドロであるが、
向かいに座る鷲鼻の女は、
持ち前の鼻を撫でる素振りで口元を隠しつつ、
物憂げな表情でアレハンドロを見つめていた。
「ハードル……そうね。確かに」
さて、この二人が腰かけていたのは、食堂内でも比較的奥の方。
アレハンドロは入り口を背にしていた。
ハビエルは人の出入りを見ていた。見えていた。
入り口側の席でラグネルとヴァイデフェルトに何か力説中のパーディ、
券売機の前でワイリーと談笑するダスティン、
お気に入りらしきマアト・クィルを引き連れて退出するアルメイダ、
それから……今、入ってきたダイを。


PHASE-10 忍び寄る影(6/7)

【弱点とかないんですかぁー?副長って】

負けたってのに笑って言ってくるアレハンドロの満足そうな顔が、

妙に頭から離れないまま、俺は自室に戻り、シャワーを浴びていた。

熱いシャワーだ。浴室は湯気に覆われ、壁の鏡は曇っていく。

「弱点……か」

あのビンタンとか言う女も、そんなことを言っていたなと思い出す。

【ローランは確か、足の裏が弱点だった。面白いと思わない?

あんなスゴいヒーローに、そんな弱点があるなんて……

だから、知りたいのよ。アナタの弱いところも】

つくづく嫌いなタイプの女であるし、

何より俺の前でローランを持ち出す辺りが……

ただ、そういった心情を抜きにしても、

俺はあのとき、返す言葉を持たなかった。

弱点……弱さ。言い換えれば、何を恐れているか、ということだろう。

となると、──全く以て不本意ではあるが──ヒントになる言葉が、

あるにはある。言ったヤツが、いるにはいる。

【人は死に直面した瞬間、思うことは恐怖しかなくなるのに】

……そんなことを嬉々として語っていた、例の強化人間とか。

俺が半分ぐらい死にたがっているとか、適当言ってやがったな。

ふざけたヤツだった。俺のことをお兄ちゃんとか呼びやがったり、

部下だか何かを自分の子どもだと語り始めたり。

多くはどうでもいいこと、取るに足らぬことであったのだが、

一言だけ、妙に引っかかる台詞があった。

【いつまで……死に損ねる気?】

生き続けるではなく、死に損なうと。

変な言い方だが、妙にしっくりくる。

定命(じょうみょう)……とか言うんだっけか?

人間の終わりは決まっているらしい。そういう考え方があるという。

俺の場合、死は……怖くはなかったな。ただ、それは、

【厚い鉄の壁を一枚隔てしまえば……「死」はどこか遠くに……

殺しているという自覚も、殺される恐怖も……

不思議なものだ。忘れてしまっているのだから。

だからこうして、平気な調子で話せるんだろうなぁ……】

そうヤン・クールカが語った通りかもしれない訳で。

ならば、本当は怖いのか?では、

【フィリップ・マーロウが言ったろう?

『撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけだ』と】

そう語ったレェ・アモンの、マーロウの『覚悟』とは?

あのときは俺も、

【アンタの望むものは、ここにはない】

なんて息巻いたが、ヤツが本当に望んでいたこととは?

……考えたところで答えは出ない。

ただただ、多くの人間の言葉が頭を駆け巡った。

脳が、まるで空気を入れすぎた風船のように、

破裂してしまいそうだった。

いや、派手な爆発でないだけで、穴ひとつぐらい出来たかもしれない。

温度が上がりすぎた熱湯を、冷水に切り替え、

今度は低すぎる温度に、肌を刺されたような痛みが襲う中で、

空気──つまりは、列記したような様々な言葉が、

もう頭の中から離れてしまっていたのだから。

最後に残った、あるいはそれから先に思い当たったのは、

こんな一言。

【また……守れなかったね?『お兄ちゃん』】

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