機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-11 海上の狼煙(1/7)

──その日の夜のこと。

オランの街から、灯りという灯りが消えていき、

ほとんど街灯だけに道々が照らされる程度までに暗くなった、

11時50分ごろ。

6月5日と表示されている筈の時計の文字が、6日に見えて驚き、

目を擦(こす)るマアト・クィル。

両眼ともに半開きで、今にも眠りに落ちそうといった様子である。

彼女のいるブリッジは今、

蛍の光のような、緑がかった光によって微かに照らされるばかりで、

ほの暗く、隣にいるルイス・ハビエルの顔すらよく見えない。

浅く被っただけの帽子が影になり、

あの特徴的な鷲鼻のみ、シルエットとして目立っている。

「……灯りを、消す意味は?」

そう尋ねたのは、ゲルハルダス・スワルト。

彼は帽子なぞは被っていたが、生来の焼けた黒い肌が闇に同化し、

振り返り様にマアトから見えた顔は、

血走った目だけ、浮いているように見えた。

「擬態よ」

ハビエルが即答する。

「……《フレイヤ》がオランを発ったことを隠す為に……ね」

「効果あるんすかねぇ?……レーダーで見りゃ一発だと思いますが」

半笑い気味にこう語るザイロ・モンキーベアーの方へ、

ハビエルの首が動いた。慌ててモンキーベアーが顔を下げ、

「冗談ですよ」

と呟いた。

彼の席はマアトからは遠く、表情はおろか、顔すらもよく見えない。

「……まだ出ないの?」

今度はアルメイダから、そんな声が。

「カモフラージュ用に、徐々に潜水させていっていますから」

「あっそ」

次の瞬間、アルメイダは胸の辺りから何か出した。

口へと運ばれる指の動きから、タバコだと推測できる。

これにはハビエルが振り返り、

「ここでそれはちょっと……」

そうタバコの先を掴んで制止した。

「……こういうの、平気か?」

今度の声の主はルアク・パームシット。その横にいたパーディが、

「何が?」

なんて聞き返して。

「この落ちてく感じが、傷に響かないかと思って」

「なぁ~い、ない、ない」

「……なら、いいんだけどさ」

両者の姿は、マアトの隣の隣ぐらいにはあって、

目を凝らせば、どうにか表情が読み取れる距離であった。

「考えすぎだし……てか、ルアクって気にしすぎだよ。色々。

肩がぶつかったぐらいで、大慌てて謝ったんでしょ?えーと……」

パーディはそこまでは笑顔で話していた。しかし、

「……サムに」

と付け加えられる際に、その表情が曇る様子が窺えた。

この間、確かにブリッジの外、窓の景色は静かではあるが、

変容を始めていた。視線が自然と下がっていく不思議。

いや、分かっているのだ。《フレイヤ》の船体が少しずつ、

水の中へと沈まんとしていくのが。

やがて街灯の光さえ消え、外に暗黒の世界が広がった頃に、

戦艦《フレイヤ》もまた、暗い海の中へと消えていった。




さて、トリポリでは。
「……そういうことでしたか」
そう語り、男はゆっくり頭を上げた。
背格好にして2メートル近くあろかという長身の彼が、
頭を下げていたのは、敬意というよりは、より物理的事情、
目前に立つ170センチそこらのノエル・ド・ケグに対して、
目線を合わせるとの目的からであったろう。
こうして顔を上げた後、上がる勢いにて乱れたと思われる左の前髪を、
整える素振りを見せた。
しかし、直したところで、あまり変わらない。
精々、カールした前髪の形が、多少円として綺麗になった程度である。
やむを得まい。彼は元々、こう前髪を額に垂らしていたのだから。
まるで、目の上に出来たこぶのように。
「それで……私に出来ることはありますか?」
ノエルは斜めを向き、半身を相手の方に寄せる。
「ひとつ、頼めるか?ドナウアー」
「何なりと」
視線を気にしてか、ノエルの顔が室内に向く。
そこは先ほどと変わらぬ、あの宴会場であって。
彼らが立つドアの周囲にこそ人気はないが、
部屋全体として見れば、慌ただしく人々は動いていた。
「……してくれ」
「はい」
ドナウアーこと、このフェルディナンド・ドナウアーという男は、
間髪入れずを体現するが如く、半ば声を被らせるばかりに答えた。
間もなく、部屋の中央辺りにいたリョウ・ナラにより、
「ノエルさん!ちょっと!」
と呼び止められ、ノエルはドナウアーより離れて行った。
そんな後ろ姿を目で追い、
「本当に……ご立派になられましたな。ご子息は」
そう、ドナウアーが漏らした声は、はたして届いたのだろうか?
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