機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-11 海上の狼煙(3/7)

……10年以上前、彼と出会った。私はまだ、17歳だった。

あの頃の彼──セベク・アガレスは、

多分、60歳とか、もう随分お年を召されていたけれど、

年の割にはお若くて、背も高く、そしてハンサムだった。

少し話しただけで、気に入ってもらえたみたいで、

初めて会った日の夜には、私と一緒のベッドで寝ていたわ。

彼は語らなかった。自分の過去を。

語りたがらなかったというべきかしら?だって、私が聞いても、

【私も君は過去を生きている訳じゃないだろう?】

とか言って、答えてくださらなかったのだから。

1年ぐらいして、私は彼の子どもを授かった。

そのときの顔を、今も覚えているわ。とても嬉しそうだったから。

妊娠が分かったときに、彼は私に色んな手続きを求めた。

土地の権利書とか、お金のこととか、色々ね。

彼は私に結婚してくれると言っていたから、

その為に必要な手続きと聞いて、私は何も疑わなかった。

本当に何も……おめでたいわよね?騙されてると知らないんだから。

やがて父が死んだ。

睡眠薬を多用に服用していたのが理由だと言ったけれど、

私が知る限り、睡眠薬なんて常用する理由がなかった。

もしかしたら、セベクが始末させたのかもしれないわ。

警察にでも金を握らせて、ね。

父が死んだ一週間後に、私はあの子を出産したの。

途端に、私は捨てられた。子供を取り上げられて、ね。

彼が欲しかったのは、自身の後継者となりうる子供と、

父が持っていた土地のお金だった。

似たような方法で巻き上げられた人は他にもいたそうよ。

当然、抗議したわ。でも……相手にされなかったどころか、

耳を疑うような言葉を返してきたの。

【その方でしたら、先日お亡くなりに……】

そう、私は死んでいたの。

アフリカ共同体政府が崩壊する半年前だった。

戸籍上の私、子どもを出産したあの日に、

出産後の出血が元で死亡していたことになっていた。

当然、私はセベクを問い質(ただ)した。

そしたら彼はあの日と同じことを言ったの。

【私も君は過去を生きている訳じゃないだろう?】

……行き場をなくした私を、セベクはスタッフとして雇用した。

許せなかったし、何度殺してやろうかと思ったけど、

子どものことがあるから。あの男の作り上げた『帝国』の中で、

あの男を失った『帝国』の中で、あの子がどうなるかを考えると、

結局すがるしかなかった。

関係は続いていたのよ?それからも。

例の飛行機事故で、彼が自室に引きこもるようになるまで。

きっと罰だったのよ。それまで彼かやってきたことの、ね。




「お金なら、あるわ。こんな日がいつか来ると思って、
必要経費とか何とか言って少しずつ、下ろしてきたお金が。
ネイトの傷も、ここじゃなくて、アメリカなら治るかもしれないし、
いや、プラントなら、もっと……
だから……お願いよ、アモン。私とあの子も連れていって。お願い」
そう地面に膝をつき、懇願するレネネトと、
背中を向けたまま立ち止まったアモンとの間で、
風に吹かれて砂煙が沸き立った。
「契約は……その日の晩まで、でしょう?」
時計を確認する。時刻はまだ11時代である。
「まだ……ネイトはアナタのご主人様なのだから」
鼻息を荒らげながら、笑うレネネト。
「……助けてよ。助けなさいよ!レェ・アモン!」
アモンは振り返らず、進もうとしていた。しかし、因果なもので、
砂に絡めとられた後方の車輪が、回ることを止めてしまう。
やむなく振り返り、確認せんと屈んだとき、
彼の目の端に、笑うレネネトの顔が映った。
「……おめでたい女よ。今も、昔も」
アモンの呟く声に、レネネトは反応せず。
「金ならある。金なら」
などと、繰り返すばかりで。
「セベクは言ったのだろう?……時は流れているのだ。本来は」
スーツケースに膝を当て、軽く持ち上げ、アモンは、
キャスターを指でなぞり、回す。
水車のように、砂をハラハラと落としながら、回転するキャスター。
「まあ……流れていないのだろうな。オマエには」
車輪という、言わば小さな砂時計が、
すべての砂を落としきるのに、そう時間はかからなかった。
間もなく、うっすら砂色に染まった車輪が、
カラカラと軽い調子で回る音が響き始める中、
アモンはゆっくりスーツケースを地面に置いた。
キャスターはまだ回っている。
小さな回転が巻き起こす、疎(まば)らな煙。それを払う弱き風。
それでも、大の男一人の、手元を隠す程度には、
広さを持った煙であったという。
「……えっ?」
とレネネトが声を上げたときには、もう動作は終わっていた。
彼女の眉間に空いた風穴。背中側に向けて倒れる体。滴る血。
「……もう、過去になった後だ。すべてがな」
そう語り、拳銃を下ろしたアモン。
彼の腕時計はその頃、0時を報(しら)せていた。
……4月25日0時を。
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