機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
駆け込むリョウ。向かうドアの前には、男が一人。
ハリネズミ頭の男ことトゥーッカ・マンニッコ、その人である。
「ノエルさんは?」
息の乱れた声で問うリョウに、マンニッコは即答する。
「中にいる」
「わかりました……失礼します」
そうして中に入ると、先日同様に、
テーブルを隔てて向き合うように座るノエルとホルローギン、
そして部屋の奥にオートクレールの姿がある。
子どもっぽく笑うホルローギンに、頭を垂れるリョウであったが、
すぐに頭を上げて、
「先程、報告を受けて……」
そう語り始めた。
「昨晩、トリポリがザフトに攻撃された話か?」
「……え?」
「その話なら、さっきから話題に上がっている」
リョウへ向け、ガンを飛ばすノエル。
「……驚かれ…………ないんですね」
三人しかいない部屋を見渡すリョウ。
「……ネイト様が先々月に息を引き取られた今となっては、
トリポリの拠点としての意味合いはやや薄れていますからね。
もっとも……ザフト側にその情報がいっているかは、また別問題ですが」
片手間に紅茶を飲みながら話すホルローギン。
「よく隠し通したものだよ……彼らは」
そう呑気そうに爪を切るオートクレール。
未だ呼吸の乱れが収まらないと見えたリョウは、半ば呆然としていた。
「……というよりは、『明けの砂漠』がザフトを信用していない、
そのことの顕(あらわ)れかもしれませんね」
ティーカップをゆっくりテーブルに置くホルローギン。
「ひとまず、君の知っていることを話してくれ。リョウさん」
そう微笑みがちに、ホルローギンはリョウの方へ向き直った。
「はい、それが……」
『夜にしちゃ随分と……明るい街じゃねーか』
ワイリーが笑っていた。
『オランとは、えらい違いだぜ』
『……流石にそこを比べるのは、可哀想ですよ。ワイリーさん』
『そうかぁー?ダスティン』
……俺は《ヴェスティージ》のコクピットにて、
ラジオ代わりにそんな二人のやり取りを聞いていた。
まあ、耳はそっちに向きながらも、目は別の場所を見ていたが。
オランを絶った俺たちの船団は、地中海を進んでいた。
適当な場所で戦艦は、その身を海中から出した。
さながら、海面から顔を出す鯨のように。
それから、敵との遭遇を警戒して、
俺の《ヴェスティージ》とダイの《Im/A-P》が、
それぞれ《フレイヤ》の左右に陣取った。
カモフラージュの為に、皆色を黒一色に変えたりしてさ。
《フレイヤ》の上では、ホーク小隊の《ジズ》3機が巡回しているし、
下では、アレハンドロの《アビス》が、
コバンザメのように張りついて、下からの攻撃にも備えている。
そんな中々の警戒体勢が敷かれる横で、平然と、
『オランだって、元は確か大きな街だった筈だぜ?
……何とかって小説の舞台にもなってたし』
『カミュの「ペスト」のことが言いたいんですか?』
『おう。それだ、それだ』
などと話す、ワイリーとダスティンが少し羨(うらや)ましかった。
『……ふざけやがって』
と小声で言う辺り、ダイのお気には召さなかった様子だが。
『すっかり意気投合って感じですね……お二人とも』
そう声をかけるのは、ヴァイデフェルト。
ダイの後だからか、心なしか声が優しげに聞こえるもので。
『ホントなら、
俺の方は「小隊長様ァ゛~」と頭下げなきゃなんねーんだがな』
『やめてくださいよ。堅苦しい。ワイリーさんのが先輩ですし、
僕からした「お兄さん」みたいなもんですよ』
『ほぉー、「おじさん」と呼ばなかったな。誉めてやろう』
ワイリーの物言いに笑いを堪えるのが大変だった。
『……何歳違うんですか?』
『おー、ヴァイデフェルトちゃんよぉー、
そんな不毛な質問しちゃう?』
『すみません……でも、気になるじゃないですか?』
……そんな話が続く一方で、陸が確実に近付いてくる。
先程までは街が見えるといえど、遠くに見える灯台のようで、
光としか捉えられなかった。
だが今は見える。
砂浜を照らす街角の外灯に、疎らながら通り過ぎる車の影。
更に奥には、ドミノのように並んだ長方形の高層ビルが。
実を言えば、サイズの問題で先に目に入ったのは、ビルの方だった。
『……フッ』
とは、ダイの咳払い。何気ないところが、少し震えており、
緊張した顔が目に浮かぶようであった。
さあ、ここからは俺の仕事で。
「……そろそろだぞ?みんな。構えろよ」
そう軽い檄を飛ばして。
直後、案の定と、砂の下で何かが蠢(うごめ)いたかと思うと、
そこからビームが飛んでくるのだから……