機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
ティンドゥフに侵攻したイナバ・シゲル隊を苦しめた、
アリジゴクがごとき敵。既にデータは上がってきていた。
機体名を《GAT-399R6/Q インフェルノダガー》という。
文字通りのアリジゴクなのだが、
機能的にはむしろモグラやオケラに近い。
なにせ、両腕に掘削用のブレードを備えているのだから。
……それが、トリポリの海岸に隠れていた敵の正体であった。
5、6機あまり、砂浜に埋まってやがって、
《フレイヤ》の入港に際して、背中のビーム砲を撃ちかけてくる。
ミラージュコロイド兵装により、その姿は見えないが。
幸い、こちらに被弾したものはなかったが。
『頼みますよ。副長』
アレハンドロの声。
「俺に丸投げかよ」
『ヘヘッ』
笑って誤魔化すアレハンドロ。
「……後でぶん殴ってやるよ」
《フレイヤ》より、軽い助走をつけて飛び上がる。
暗い空をバックに羽ばたく《ヴェスティージ》の青き翼が、
いかに目立ったことか。想像に難(かた)くない。
敵の砲口がそれに合わせて上へと向く。
空に向かって轟(とどろ)く様は、
竜が空に昇るように壮大なものだったが、
同時に振りが大きく、こちらまでは当たらない。
「……消し飛びな」
頭上なら、クトゥルフを構えた。
今は片腕にしかなくなった、例のビームガトリングである。
持ち前の手数と連射速度に、重力まで味方し、
心なしか、宇宙で使った際より速く多くのエネルギー弾が降り注いだ、
気がした。
砲火から2、3秒後、《インフェルノダガー》側からの反撃が一度あり、
メインカメラの頬を掠めたが、それだけ。
10秒も撃ち込んでいれば、敵は動かなくなった。
『相変わらずスゴい威力っすねぇ』
アレハンドロの声。次には、ワイリーが、
『イナバ・シゲル隊が苦戦したって話が嘘みたいだぜ』
などと付け加える。
時をほぼ同じくして、《ヴェスティージ》の両足が、
トリポリの砂を踏んだ。
砂浜は雨のように降ったビームガトリングの跡か?
それともアリジゴクこと《インフェルノダガー》の掘った穴なのか?
とにかく穴だらけであった。
「いや……」
僅かに感じた足元の振動に、俺は右腰のビームピックに指をかけた。
「……侮(あなど)れねぇよ。コイツらは」
案の定、顔を出した。洞穴から顔を出すプレイリードッグのように。
しかも出てきたのは本体ではなく、銃身の方で。
更に敵の右手が俺の右足を掴んでいた。
『死ね!《フリーダム》もどきめ!』
相手のパイロットが叫んだ。
暗い穴のほとんど見えない奥の方に光が見えた。
瞬間、右手からピックが落ちる。いや、落とすというべきか。
ピックの刃が、相手の右手の肘より少し下の辺りに突き刺されば、
手も離れようもの。
穴から飛び出すビームを、バク転気味に体を捻って飛び、回避しつつ、
次に足が砂に触れるより先に、2本目のピックを穴へ投げ込んだ。
上がる悲鳴。そして爆発。
「……本来は、こうして待ち伏せして敵を襲うタイプの機体らしいな」
そんな話をした直後に、腰に一発撃ち込まれた。
咄嗟に左手のビームシールドで防御したが、
撃たれた衝撃が体を半歩ばかり押し返した。
……敵の位置を確認しようにも、レーダー上には反応がなく。
『お怪我はありませんか?アスカ副長!』
それは、ホーク小隊の《ジズ》のパイロットから。
「ああ……大丈夫だが……」
と彼らの位置を確認した瞬間、嫌な予感がした。
「……前に出過ぎだ!オマエら!」
警告したときには、時すでに遅しと。
相変わらずどこから狙っているか知れぬ敵の狙撃に、
《ジズ》の1機が撃ち殺されてしまったのだから。
「まずは……1機」
市街地のどこかにいる、
自身の愛機《NダガーN》改修モデルのコクピット内にて、
彼女はそう呟いた。
『……敵はどこまで来ている?』
「砂浜まで……恐らく、《インフェルノダガー》隊は殺られたものかと」
『……そうか』
無線の相手の返事は重かった。
『私が出向きたいところだが……こちらもこちらで動けそうにない。
悪いが、そちらは頼むぞ。エリサベト・ハッシ』
「……了解しました」
『武運を祈る』
機体が抱くスナイパーライフルのスコープが、
《ヴェスティージ》を捉えている。
「お任せください……クールカ隊長!」