機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
必死に援軍を求める部下に、ルカーニアの回答は冷たい。
『ハリネズミは出さない。その人数でどうにかしろ』
そんな半笑いのルカーニアの台詞に、
「しかし」
などとアントンが食い下がれば、
『フン……少しは頭を使え!』
なんて笑い混じりの怒声が返ってくるだけ。
「……頭?」
要領を得ないと見えるアントン。その視点はレーダーから動かない。
『それが最善なら、とっくにやってる。
ハリネズミどもじゃ、今回は分が悪い。それだけの話よ』
アントンの脳は、ルカーニアの語る意味を理解できずにいた。
敵はゲリラ戦を展開している。
ならば、障害物を一気に破壊してしまえばいい。
そうすれば、敵は前に出て戦うしかなくなるのだから。
普通はそう考える。これはアントンでなくても。
しかし、ルカーニアは言う。
『もっとよく……前を見ろ』
ハッと顔を上げたとき、アントンの目の前には1機の《ハイザック》。
レーダーには出ていた。
ただ、この濃い煙の中で直接視認する難しさと、
レーダーとして表示できる程度に縮小された世界では、
現実の距離感が掴めにくい。
敵の《ハイザック》は射程ギリギリ、
いや少しばかり遠すぎる程度の場所で、
スナイパーライフルを構えていた。
そのハイザックの頭部が、煙の中より一部だけ見えていた。
ほんの一部。モノアイを映す黒いバインダーの端の方だけが。
それを視認した直後には、もうビームの一発が放たれた後。
アントンの《ジ・ゾウム》は、回避は間に合わず、
頭頂部のやや左側辺りに、大きな風穴が開いて、
次の瞬間にはメインカメラのほぼ半分が消し飛ぶ事態に。
幸運なのは《ジ・ゾウム》のコクピットが頭ではなく腰にあったことで、
アントン自体にはダメージがなかったことであろう。
無線には機体の爆発音が拾われ、
通信中の『ベルフェゴル』に伝えられたようで、
『アントン!』
と叫ぶフェイの声が聞こえてきた。
対して、ルカーニアは呑気なもので、
『ざまあねぇ』
と笑っておいで。
「……無事です。ご心配なく」
一応そう報告するアントンを、ルカーニアはまだ苛めたいらしい。
『……んなことは、通信が続いてる時点でお察しよ』
アントンはこの直後に、
ハイザックがいた方向に一発撃ち返しているが、
手応えはなく、反応も勿論消えてなどはいない。
唇を噛み締めるアントン。それを嘲笑するように、
ルカーニアの話がなおも続く。
『視野を広げろっての。数はてめぇらの方が多いんだ。そうだろ?』
「……はい。レーダーから確認できる限りは」
『だろうが?援軍なんざ勘定するより、今できる最善策を取れ。
簡単じゃねぇか?密集して、各個撃破する。それだけでいい。
他に……質問は?』
回線は他の《ジズ》らの耳にも届いている。
アントンが周囲を見渡せば、彼の方を向いているものが多数。
そこまでなって気付かない程には、アントンも愚かではなく。
彼らが指示を待っている。それぐらいには気が付いた。
「いいえ……了解、致しました……」
首をゆっくり前に降るアントン。
「……モビルスーツ隊に次ぐ。サーベラスだ。
サーベラス陣形を取りつつ、一斉に降下する。
目標……左約500m下部の《ハイザック》!」
誰からという訳でもなく、また疎らでもあったが、
数名の応答する声が聞こえた。
間もなく、『ベルフェゴル』との回線が一時切断される。
そんな頃合いでもって、艦内のルカーニアは皮肉っぽく笑うと、
「通信を傍受されていたら……なぁーんてことは考えないのかねぇ……
あのガキんちょ」
そうフェイを見つめた。
フェイは目を逸らして、下を向いて呟く。
「……酷い人」
ルカーニアにはそれが聞こえた様子はない。
フェイが目を離し、呟き終えるその頃にはもう、
その視線は画面の方に移ろっていたのだから。
「いいんですか?……真実をお伝えしなくて?」
男性クルーが震える口で背中からルカーニアに詰め寄るが、
「通信は傍受されるリスクが高いって言ってんだろ?」
と当人は振り返りもしない。
「角出せ、槍出せ……目玉出せェ~……なぁんてな」
呑気そうに口ずさむルカーニアを咎める者はなく。
それから唐突に振り返ったかと思えば、
「サザエにあんのかねぇ?……角とか、槍とか」
と、フェイの顔を舐めるように見つめるのである。
対するフェイは、見逃さなかった。
ルカーニアの手がボトムズの内側に入れられ、
丁度股間の辺りで指を立てて、膨らませていることを。
丁度、角や槍みたいに。