機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
その傍らに立つ《ヴェスティージ》の中にあって、
俺は小さく見える橙色した《ゲルググ》の背中を目で追っていた。
それより先、向かったダイらの姿はもう見えない。
「……柄にもねぇ」
と、自分でも思った。
まさか、俺があんな形でダイに発破をかける日が来るとは。
まあ、前々から思っていた。
礼儀正しいヤツだが、どこか本性を隠しているようだと。
そのせいか、あの日表面化しても、怒りは沸いてこなかった。
むしろ頼もしくさえあった。
よく言ったダイ。
俺だってオマエぐらいの頃には、同じぐらいには生意気だったんだ。
遠慮することはない。もっとバカにやれ。
尻拭いはしてやるからよ……
なんて言うと、どうにも親父臭いが、それでも、
「『アスランみたい』は……ないでしょうぜ。トライン隊長」
ただ、そう呟いた次の瞬間、
俺は強烈な爆発音と、遠方にて巻き上がる黒煙を見ることとなった……
『敵機捕捉……どうするよ?フーディーニ隊長さぁん?』
冗談めかしく笑うアレハンドロ。
「隊列を崩さず、撃退に動け」
そんなダイの返答に、
『……へいへい』
と返すアレハンドロの声は、どこか力が抜けていた。
さて、目下の敵は《ウィンダム》が計6機。
ビームシールドを展開しつつ、砲撃をかけてくる。
『分散はしないと?』
ラグネルの問い。
「必要ない……それより、背後を守れ!」
流石に無視は出来なかったのだろうが、やや口調が荒い辺りに、
ダイの本音が垣間見える。
「いいから掴まってろ!このまま、突っ切る!」
その形態を例えるには、雰囲気的にそぐわないものの、
引き合いに出すとすれば、騎馬戦が近い。
前には立つダイの白いブルートフォースの《Im/A-P》に、
右肩を掴むアレハンドロの《アビス》、
左肩を掴むラグネルの《ガイア》がそれぞれ付随する。
『そんなに飛ばして……ガス持つのかよ』
苦笑するアレハンドロを無視して、飛ばすダイ。
顔のビームガンを乱射しつつ、《ウィンダム》に近付いた。
逆に敵はその場で分散。
翼を広げた鶴のような陣形で、3機を取り囲む。
「古典的な戦術が、通じるとでも思ったか!」
ビームサーベルを抜いたダイが、一太刀にして、
まず1機の《ウィンダム》を腰から両断した。
「手を、離すなよ!」
宣言すると共に、更に加速して、
切り伏せられた《ウィンダム》を足場に飛び、
爆発するより先に通り過ぎた。
『おい!残りの5機は素通りかよ?』
アレハンドロが鼻で笑って伝えれば、
「……バカいえ。とっくに、手は打った」
そうダイは誇らしげに答えた。
事実、この直後には、同時に2つの爆発が巻き起こったのだから。
『……えっ?』
冷静なラグネルも、このときばかりは、そんな声を漏らした。
「見えなかったか?……すれ違い様に、ミサイルを落としてやった。
シュミレーターで検証済みだ。
あのミサイルの追尾機能は、本体と密着状態の機体は追尾しない。
ついでに、一定速度以上に加速した敵にもな。
だから、両方の条件を満たしてやったんだ。それだけのこと」
『……知らねぇぇぇ』
アレハンドロが苦笑する。
「残りは……」
ミサイルの接触とビーム拡散が、《ウィンダム》を3機仕留めた。
しかし、まだ2機が迫ってくる。
反転し、ダイらの背後に撃ちかける。
「おい!」
『……わかってるよ!』
《アビス》の甲羅と、《ガイア》のビームシールドが守る。
ただ、敵は何もそれだけではなく……
『アッ!』
と声を上げるラグネルに、
『おおっ?』
なんてアレハンドロは頓狂な声で応じ、勝手ににやけた出すが、
事態は笑えるものではなかった。
レーダーに反応のない敵が、突然狙撃してきて、
《ガイア》の右足首を撃ち落としてしまったのだから。
「構うな!動いていれば、狙いは早々つけられん!」
そう言い、ダイは振り向かない。
「……敵の本拠地は、割れてんだよ!この野郎!!」
ビームサーベルを背中に戻し、腰から2丁のガンを抜く。
目標は、一件の小さな民家らしき建物だった。
モビルスーツのサイズで見下ろせば、玩具のような小ささ。
一瞬……躊躇するような素振りを見せたダイだったが、
「もう……引けるかよ!」
との叫び声と共に、これにビームを撃ち込んだ。
当然、爆発する建物。
その脇に、ダイら3機は足を下ろすのであるが。
『ミッションコンプリート、とは行かねぇか?』
アレハンドロの言う通り、例の《ウィンダム》2機に加え、
少し先から《ワイルドダガー》数機が駆け寄せるのが見えている。
「あぁ……そうだな……」
目を細めたダイ。彼はこのあと、目にすることになる。
焼け落ちる建物の下で、静かに光る赤いひとつ目を……