機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
《ドヌ・ゾド》の情報は入っている。
いや、仮に《ドヌ・ゾド》がそこにいなかったとしても、
他の敵に苦戦しているかもしれない。
……俺だって、出来ることなら助けに行ってやりたかった。
意地悪で無視をした訳ではない。単に、その余裕がなかっただけだ。
このとき、俺の駆る《ヴェスティージ》の前にも、
1機のモビルスーツが立ちはだかっていた。
《NダガーN》はもう仕留めたし、
まして《ワイルドダガー》や《ウィンダム》なら、
こう手間取ることもなかったさ。
《NダガーN》撃破の直後、ソイツは突然空より現れた。
レーダーは、その反応を捉えていたから、
特段対応が遅れることはなかったが。
相手は所謂、ガンダムタイプのモビルスーツだった。
「オマエ……一体……」
なんて問いに答える声はなく。
暗い空に半ば同化するような6枚の紺の翼をはためかせて空を飛び、
ビームライフルを撃ちつつ接近する俺の《ヴェスティージ》を、
寸でのところで回避した。
戦艦《フレイヤ》を狙われるとまずいから、
持ち場を離れることはひとまず出来ない。
逆手に握ったビームピックの方も当たらなかった。
この敵のモビルスーツは、
腕にビームの刃を形成する大きな鎌を抱えている。
死神が持っているような鎌だ。
こちらとの接触を回避した次の瞬間には、稲穂を刈るように鎌を振り、
これを切り裂こうとしたが、振りが大きい分だけ、隙も大きくなる。
通り過ぎる一瞬で俺を刈るのは難しかったようだ。
俺は両腕にビームシールドを展開させたまま、
空へと垂直方向に飛ぶ。機体を回転させて隙を見せぬように。
同時にビームライフルも撃ちかけ、敵を襲う。
ここで明らかとなるのは、この機体の異常な柔軟性。
モザイク壁画のように白からオレンジに至る濃さの違う数色が、
グラデーションとなる形で疎(まば)らに点在する、
このモビルスーツの特異なボディは、滑らかな動きを見せると、
その身を襲うビームの線を僅かな動きでもって避けてみせた。
それはモビルスーツの動きというよりは、
むしろ人間のそれに近い所作(しょさ)であった。
それからお返しとばかりに、翼の少し上辺りにあった、
ビーム砲を屈むような姿勢になりつつ放てば、
そこはビームを回避するような運動性。
回避が完全には間に合わず、ライフルを落とされてしまった。
「……クッ」
それは声というべきか、音というべきか。
食いしばった俺の歯の隙間から、そんなものが漏れた。
「ワイリーのヤツが……間に合えばいいんだが。アイツら生きて……」
「生きて……」
ラグネルに、そう問いかけるダイ。それを制する、
『だるまだってよォ~、ダイさァ~ん』
そんなアレハンドロの言葉。
『カッコつけてたのにィ~……ダッセェなァ~。
何だっけェ~?「背中は預けた」だっけかァ~?
……預けた結果がこれかァ?俺も足やられちゃったじゃあねぇかァ!
畜生ォ!』
返す言葉がなく、唇を噛むダイ。
『なァ?ダイ……知ってっかァ?
達磨ってのはなァ……倒れねぇんだぜ?』
「……うるせぇよ!」
《Im/A-Pだるま》が、動いた。
赤べこみたいに、傷ついた首を上下に揺らしながら、
顔のビームガンを乱射した。
無論、《ドヌ・ゾド》へはダメージを与えられない。
どころか、届きもしない。
ただ、砂と瓦礫を撃ちかけて、煙を上げたばかり。
「そいつは、だるまじゃない……起き上がり小法師てんだ」
砂ぼこりが《ドヌ・ゾド》の視界を遮った瞬間に、
《アビス》は勢いよく飛びかかった。
俺との模擬戦で見せた、あの飛び魚がごとき跳躍で。
風車のように回り、弾丸のように前に出る。
その旋回に合わせ、巻き込まれた砂は小雨(こさめ)よろしく、
疎らに《ドヌ・ゾド》のボディにぶち当たる。
『何をッ!』
振り上げられた《ドヌ・ゾド》の右腕。
しかし、回転の勢いに弾かれて、《アビス》を掴めない。
続いて腹の辺りから、ビームが撃ち出されて《アビス》を襲うが、
当然弾かれて意味を成さず。
そこには、押し返す勢いすらなかった。
『こんなことでは……回転速度も落としませんか』
そう語るフェルディナンドに、尚も焦りは見て取れぬが。
『ぶちかましだァ!くそったれ!』
その様は、何か空間が螺曲(ねじま)がっていくようで。
自身の半分程度しかないモビルスーツの突撃に、
流石の《ドヌ・ゾド》も、塵や芥(あくた)を踏みにじりながら、
2歩も3歩も押し戻された。
出しっぱなしになっていたビーム数発が、
《アビス》のシールドに弾かれて、小便みたく飛び散った。
『……反撃開始だよォォ!』