機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-12 砂漠の巨獣(7/7)

「少し下がらせたぐらいで、まるで勝利したような物言いですね」

フェルディナンド・ドナウアーは笑っていたが、

その表情から醸(かも)し出される、余裕のなさを隠し得なかった。

無理に上げた口角の隣で、

歯軋(はぎし)りを起こす真っ白な歯が並ぶ。

「こんなもの……最後っ屁(ぺ)でなくて、何だというのです!」

後ずさった足が、前に出る。

足元には、ごく短いながら電車道が出来上がっていたが、

ドナウアーは気付いているのか、いないのか。気に止める様子はない。 

両腕ががっしりと《アビス》のシールドを掴んだ。

ライスボールでも握るみたいに上と下から。

穴は腕にもある。証明するように光を放ち始めた。

『……じゃなけりゃ、何だって?』

アレハンドロは……笑っていた。

ただに、その声を聞いただけでも、

あの頭に来る程嬉しげで、どこか間抜けなあの笑顔が、

目に浮かんでくるように。

笑っていた。下品にも、鼻から吐息が漏らしながら。

『分かりきったこと、聞くなっての……』

放たれたビームが上も下も、シールドの繋ぎ目を目指して、

空中で屈折、矢のごとくに降り注ぐも、

あまりに小さな隙間であり、

枝葉の先から微かに滴(したた)るばかりの朝露(あさつゆ)みたく、

侵食すれど、繭(まゆ)の中の幼虫を傷付けるには至らない。

『ただの、露払(つゆはら)いさ』

その時になってようやくドナウアーは敵の意図を知った。

《アビス》のシールドが開く。花みたいに。

それから、中の腕が掲げる形で上へ伸び、

《ドヌ・ゾド》の太い右腕を掴んだ。

シールドは背中側にも開けていた。

当然、下から掴んでいた左腕がビームを放ち、《アビス》を襲う。

しかし、瞬間、事もあろうに《アビス》は、

ミサイルを盾に光線を防いだ。

誘爆し、散らばったビームが背中側から首やら胸やらを傷つけようと、

コクピットまでは当たらなかった。大した幸運である。

『……Cabrán(カブロン)!』

別に見ちゃいないが、

ニィッと笑って中指立てるアレハンドロを容易に想像できる。

振りほどこうと《ドヌ・ゾド》は腕を揺らすが、

意外にそうすぐに済む話でなく、その手が剥がれたときには、

もう避ける暇がなかった……

陸に上げられた魚が、その腹を地面にぶつけて跳ねるように、

スラスターに火がついて、飛び上がった《ガイア》の体。

背中のウィングが、ブレイドになっていた。

それは、《ネグロガイア》が、《ガイア》であった頃からの武器。

本来はビームを展開しているが、このときはしていない。

必要ない。むしろ邪魔であったから。

『やれェ!ラグネルッ!』

あのダイが叫んでいた。

数日前、つまらぬ意地で彼女を無視し、

半ばシージーを死に追いやったことを、今は忘れてしまったように。

《ガイア》の刃が迫る。

《アビス》の腕を振りほどいたことで、その勢いで、

皮肉にも《ドヌ・ゾド》のボディが《ガイア》の方を向いた。

「私が……ねぇ……」

ドナウアーの表情から笑みが消えたとき、出てきたのはそんな言葉で。

最期の悪足掻(わるあが)きと、腹のビーム砲を起動させた。

だが、間に合わない。先に《ガイア》が飛び込んでくる。

ブレイドが容赦なく《ドヌ・ゾド》の頭部を切り裂く下で、

引きずり出された腸(はらわた)みたいにズルズルと、

ビームが拡散、大地を派手に抉(えぐ)った。

ただし、下は砂。

ぽっかりと穴が空いたところで、風が全てをチャラにする。

何分、《ガイア》は勢いが乗りすぎていた。

絡みをほどき、無防備になった《ドヌ・ゾド》は、

勢いに押されて体を仰(の)け反らせていく。

コクピットの天井部分だけを派手に削り、吹き飛ばした。

風がコクピットの中へ流れて、中にいる人を外へと追い出した。

《ドヌ・ゾド》という高層ビル以上の高所から、

放り投げられた人間の末路など、語るまでもない。

ただ、《ガイア》のコクピットにいたラグネルだけが、

その最期を見ていた。聞いていた。

「絶景哉」

と嘯(うそぶ)いて、落ちていく男の姿を。

その男は、帽子を被っていた。ハンチングってヤツだ。

それが風に巻き上げられて、何故だか《ガイア》の方に寄っていく。

モビルスーツの視点から見れば、豆のように小さなもの。

モビルスーツの大きな手、その指先が撫でるみたいに振り払うと、

もうどこを探しても、

フェルディナンド・ドナウアーの姿は見つけられなかった。

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