機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
《ドヌ・ゾド》の背中が砂の大地に落ち込んだとき、
アレハンドロの《アビス》は片足で立っていた。
いや、正確には片足だけではない。
背もたれに身を預けるみたいに傾いた体は、
2枚のシールドが杖となり、鼎(かなえ)みたく支えられていたから。
少し離れたところに、ダイの《Im/A-P》も仰向けで転がっていた。
ラグネルの《ガイア》も、《ドヌ・ゾド》の残骸の横、
老いた犬がごとくふらついて歩いている。
「命拾いつーんだろうなァァ!……ダイッ!」
乱れた息で吠えたアレハンドロ。
ダイの返答こそしなかったが、
ゼェゼェ漏れる息が返事の代わりに聞こえてきた。
「いや……まだ……終わってねぇのかッ!これェェ!!」
アレハンドロの目は後ろを向いていた。
それはさながら、親からはぐれた子羊を狙うハイエナの群れ。
ビルの隙間から、何匹もの《ワイルドダガー》が4本足で立っていた。
「おいおい……参加者がいっぱいいるぜェ?」
『……「参加者」?』
「あぁ……」
最前列にいた《ワイルドダガー》が、地面を掘る素振りを見せた。
クラウチングスタートでもするみたいに、尻を上げながら。
「ダイよォ~……俺が、だるまさんがころんだつーからよ。
言い終わるまで、動けるだけ動けや」
『……ハァッ?』
「何だよ?もう、ころんでっから無理ってかァ~?
いいから、動けってのォ。言うぜェ~?だるまさんがァァァ~……」
《ワイルドダガー》の足が、強く地面を蹴った。
『おい!アレハンドロォ!』
ダイは叫んだ。声が裏返る程に。
だのにアレハンドロは……振り返りもしない。
「…………ころんだァ!」
そこまで言って始めて振り返る。
ダイには見えていなかったのだろう。
彼の右手から伸びたビームサーベルが。
頭上より2発のビーム砲を涎(よだれ)のように垂らしつつ、
飛びかかる《ワイルドダガー》。
まさに、一瞬の稲光(いなびかり)。
《アビス》というコンパスが、シールドというペンでもって、
地面に円を描く中、
飛びかかった大きな犬は、その首を落とされていた。
そして、その2滴の涎は《アビス》には当たらず、
地に落ち、陽炎(かげろう)みたいな燻(くすぶ)る煙を上げた。
「知らなかったか?だるまさんがころんだってよォ~、
鬼が言い終わったら、もう、動いちゃいけねぇんだぜ?」
回った反動から、シールドが地面より離れていた。
また勢いが、《アビス》の体を前屈みにする。
杖をつくみたいに手を前に出せば、自然、
ビームサーベルが《ワイルドダガー》の腹を貫いて。
「さァ~……2回戦と行こうかい?」
まだまだ敵はいる。見えているだけでも5、6機はいる。
「だるまさんよォ~……」
『俺はだるまじゃねぇ』
「じゃあ、返事しなきゃいいじゃねぇーか、おい!」
さあ、敵がまた前に出た。傷ついた《アビス》の胸から光が。
「そっちは後……何が残ってる?結局残った脆弱なハートか?」
『何、言ってやがるッ……』
胸から放たれたビーム砲マグヌス・バラエーナ。
真っ赤に光り、《ワイルドダガー》らに向かい飛んでいくが、
まるで当たらない。
「……ビームガンはまだ使えるか?」
『無理だ。首が逝(い)って、照準が合わせられん』
「マジかよ」
かくいう《アビス》も限界は近かった。
ビームを放つ胸からは、煙が上がっている。
「……こっちも、ギリギリだってのによォ」
残った片側のミサイルが、肩より離れていった。
こちらは迫り来る敵の1機に命中、その動きを止めた。
ただし、敵はあと4機も迫ってきている。
最後の支えだった片足が、後方の《ダガー》の狙撃で撃ち抜かれた。
これを皮切りに、体勢を崩す《アビス》。
幸運にも倒れる瞬間に逸れた弾道がかえって、敵の1機を倒したが、
それでもまだ3機いる。
「鬼さん……もうダメかも」
不思議と笑みが溢(こぼ)れていたアレハンドロ。
しかし、《ワイルドダガー》の重量がのし掛かると共に、
諦念(ていねん)から、遂に目を閉じてしまう。
「ストップ……って、聞く訳ねぇか」
『ええ……これはゲームではないので』
ラグネルの声が、
閉じかけたアレハンドロの目蓋(まぶた)をこじ開けて。
そして《ガイア》の角が、馬乗りになった敵を払い除(の)けた。
《ドヌ・ゾド》に潰された頭、
しかし、歪な角度なれど角は伸び、敵を突き刺した。
「サンキュー……サンマルティン。それから……」
残り2機。狙撃していたヤツを含めれば3機か?
しかし、件のスナイパーは、もう倒されていた。
背中からビームサーベルに貫かれて。
更に前進中だった2機も、尻からビームに撃ち抜かれて倒される。
それは、そう……
「ワイリー先輩。待ってましたぜ」