機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
お望み通り、傍観決め込もうかと思ったんだがな」
ワイリーは語る。
「お嬢ちゃんが頑張ってんのに……ほっとけねぇだろ?」
『……スケベっすねぇ。ワイリーおじさん』
「オメェには言われたかねぇよ。アレハンドロ!」
地面に降り立つ、彼の《ゲルググ》。戦場を広く見渡す。
頭頂部を削り取られて倒れる《ドヌ・ゾド》を筆頭に、
モビルスーツの累々たる屍がそこには転がっていた。
「無茶、したんだなぁ。ずいぶんと」
掠れる声。
『……副長は?』
ダイの声。
「ああ……まだ、戦ってたよ。敵とな。
今、敵は本拠地を捨てて、地中海側へと逃避を始めやがった。
《フレイヤ》にも敵が迫ってっからな。その抑えだろうぜ」
『そう……ですか……』
ダイの声には力がなかった。《ゲルググ》の足がそちらへと進む。
「なあに、しおらしい声出しやがって」
歩み寄ると、《ゲルググ》はその手で頭を掴んだ。
髪の毛を引っ張るように雑に持ち上げていく。
「オメェも頑張ったんだ……あとで褒めてもらえや。副長によ」
そんな話をしているところ、少し離れた場所で爆発が起きるのだった。
「カタ……ついたらしいな」
空を飛ぶ《ウィンダム》数機の様子を見て、俺もそれを察した。
「親バカじゃねぇが、うちの部下は優秀だろ?なあ?
……こちらも、終わりにしようか?」
カーテナを胸の前に構え、相手を見つめる。
『……あぁ、その通りだな』
そのとき、俺は始めて相手のパイロットの声を聞いた。
低い声だった。聞き取りにくいほどに。
「アァッ?」
俺が聞き返すと同時に、ヤツは腰の位置にて構えた鎌を手放した。
『カーテナの二つ名は慈悲と聞く……オマエ、シン・アスカだな?
少し、話を聞いてもらおう』
「……命乞いかよ?」
『あぁ……概ねその通りだ』
両手で握っていたカーテナから、左腕を離した。
その手を腰へ。ヤツが、逃走を図ったときの為の飛び道具として。
『まずは名乗らせていただこう。
私はパヴァロッティ・ギボンという者だ』
「……脱走兵の、か?」
『知られているとは思わなかった……話が早い』
ゆっくり両手を振り上げるギボンの機体。
『……俺は脱走兵であり、神とやらの手下ではない。
つまり、義理立てして、命を落とす必要もない訳だ』
「どのみち、敵には違いねぇんじゃねぇのか?」
『俺は上官から救援に行けとは命じられたが、
心中しろとは言われていない。撤退させてもらう。
勿論、海側へも、本拠地にも向かわないから、
オマエの部下や同僚に手を出すこともしない。
進路がおかしいと見れば、容赦なく撃ち殺してくれた構わん。
だから……』
「見逃せってのか?俺に」
ピックを2本抜いた。
「何のメリットが有って……そんなこと!」
『なら……ひとつ、教えておこう。君らが知らぬ情報を』
「……情報だぁ?」
足を少し自分の方へと引き寄せた。
相手が動きを見せれば、砂をかけてやれるぐらいに。
『ネイト・アガレスは、一月以上前に死んでいる。
ここの拠点としての価値も、そのときから下がっていた。
ザフトの連中にはきっと「明けの砂漠」は教えていないらしいがな』
「……はぁ?」
思考停止を地でいくことになるとは、我ながら思わなかった。
『情報は与えた……次は何が欲しい?答えろ。シン・アスカ』
ピックをゆっくりと腰へと戻す。カーテナは背中へと戻す。
「そうだな……じゃあ、例えば……」
足を引く。ゆっくりと。
「……テメェの命だ!」
まずは思いっきり足を前に出した。砂ぼこりで視界を防がんと。
次いで、ボールを投げるように荒っぽく、カーテナを振り投げた。
旋回しながら飛んでいくカーテナ。
ギボンは砂をかけられる直前、右の足で鎌を蹴りあげていた。
それは見えた。
ヤツの左手のビームシールドが、カーテナを弾く。
前に出るギボン。横から刈るように振り回されるビームの鎌。
しかし、まあ、その間、俺もぼうっとしていた訳ではないから。
左手でピックを抜いた。今度は1本だけ。
1本で十分だった。ヤツの右手首を切り落とすには。
空いた右手で鎌を奪い、逆(さか)しまにもヤツ自身を切りつければ、
回避が間に合わず、左腕をも犠牲とした。
切り落とされた左肘の下から、ビリビリと小さな稲妻が走っている。
「言葉を返すようだが……何がしてぇんだ?テメェ」