機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
切り落とされたヤツの腕が、地面へと落ち、砂を被(かぶ)る中、
『やはり敵わぬか……私では』
そう嘆く、ギボンの声を聞いた。
「……だったら何で仕掛けてきやがった」
思えば、妙な相手である。大鎌という武器のチョイスも勿論だが、
体もそう。アヤソフィアから抜け出してきたような、
モザイク模様を描くことからも窺(うかが)えるが、
規格が統一されていないとみられるパーツとパーツとが、
さながらレゴブロックみたいに組み合わされている。
「まったく……ゲテモノばっかりだな。ここずっと」
鎌を持ち換え、再度振り下ろす。流石に次は避けられた。
今度は角度を変え、刃を上に向け、斬りつける。
上体反らしでこれも避けられるが、いやに美しいモーションだった。
腰を振るダンサーみたい、またはボクサーのスウェーバックみたいに。
やはりモビルスーツの動きじゃない。
かなり人間に近い、ごく微細で、ごく僅かな動きである。
「……そう当たるもんじゃねぇってか?畜生」
ここから更に、避けられることを見据(みす)え、
持つ場所を下に移し、穂先をより先へ。
そうして振り下ろす。右手だけで持ち、
左手は見えないように右腰のピックに近づける。
しかし、それら配慮に意味はなかったらしい。
「……なっ!」
鎌が折れた。それも、何かにぶつかった訳でなく。
しかし、枝が折れるみたいに、ポキっと綺麗に。
そして、この動揺から生まれた僅かな隙を抜くように、
スッと飛び上がるギボンの機体。
「逃がすかっての!」
慌てて、空に向け、ガトリングを乱射する。
敵も、それなりには早かったのだが、ガトリングの発射速度がある。
相手の逃避に合わせて、腕を振り上げていけば、
体の右半身が穴だらけになっていく。
背中のウィングにまで飛び火し、何枚もの長さの違う羽根が落ちる。
それでも……致命傷になり得ずに。
右の腰から左手で、ピックを抜いて、投げつける。
いや、投げつけようとした、というべきか。
実際には身構えた時点でもうヤツの姿は見えていなかったのだから。
「心理戦にでも持ち込んで、隙を見て最初から逃げる気だったか。
通りで、意味の分からねぇことをダラダラと……」
落ちた鎌の先を拾い上げれば、仕掛けが分かった。
理屈は簡単。単純に、着脱式だったらしい。
スイッチがコクピットにあるってのは珍しいが。
「つまんねぇ猫騙しに引っかかった訳か」
苛立(いらだ)ちから、笑いながら鎌を地面に放った。
荒っぽく投げれば、鎌の刃先が深々と地面に刺さった。
──トリポリの戦い。
夜襲という方法が、果たして何の意味を持ったかは知れぬが、
ザフト側の勝利に終わったことは間違いなく。
その後、統治に入ったザフト兵の目に、
かの神の手の者は確認されなかった。
基地も既に放棄されていたらしく、
想定されていたような西アフリカ方面に対する指揮系統の存在は、
確認できなかった。
パヴァロッティ・ギボンが投げかけた言葉も、
的を得ていたのかもしれない。
思えば、我々はネイト・アガレスの正体さえ知らなかったのだ。
そこにある、『明けの砂漠』勢力の影響も、
ようやく見え始めていた状況で。
ティンドゥフ攻略戦においては、物量と稼働時間により、
退却に追いやるしかなかった《ドヌ・ゾド》を、
この度は撃退できた、というのは成果と言えようが……
ダイ・フーディーニの嘆きは、そのままザフト全体の嘆きであった。
用意していたものでは間に合わない。
既に、モビルスーツの性能がそのまま戦いの指標であった時代が、
変わっていた事実。
この戦いを乗り切る為に、必要なものは力以上に、信頼と情報。
ひとまず、我々は実績を用意した。
間もなくザフトは、西アフリカを手中に収めることとなるのだから。
……『ナイルの神』との戦いはまだ、始まったばかりである。