機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-01 悪夢の胎動(9/9)

同じ頃、俺は。俺たちは。

「……クソッ」

《カオス》の残骸を蹴飛ばし、俺は静かに奥歯を軋(きし)る。

そんな俺に声をかけるものはしばらくなかった。

ただ、そのうちに、

『戦艦「フレイヤ」。戦艦「フレイヤ」、応答せよ』

という音声が聞こえだして。

声の主は、持ち前の嗄(しわが)れた声より、すぐに分かった。

アミルカレ・ヴィスコンティ。

ロイヤル・イタリアン部隊の指揮官である。

『ハッ……戦艦「フレイヤ」より、副艦長ハビエルです。何か?』

『先程から、貴隊に動きが見られないが?』

『……いえ』

そこから妙な間があったのを覚えている。

今思えば、ハビエルとアルメイダの間に、

何らかのやり取りがあったと想像できる。

やがて20秒程度経った頃に、

『本艦において収容していた捕虜がモビルスーツを強奪して脱走し、

今の今まで対応に迫られておりました』

『……なるほど』

ヴィスコンティの一言は重かった。

そこから先に多少の沈黙を挟むこととなる。だから、俺は、

「お前らに……

いや、隊長にも、ルカーニア司令にも話しちゃいなかったが」

なんて話を始めた。

広域の電波で、他の隊にも聞こえるように。

「ヤツは……ジェイナス・ビフロンスは、

あの『ネイキッド・アームズ』のメンバーであった可能性が高い。

今の今まで……というか、今だって、確信がある訳じゃない。

だが、ヤツが強化人間で、

それもプラントのデータにあったものより古いタイプ」

『……何で今それを?』

アレハンドロが問う。

「生きている間は、

不確定な情報は状況を混乱させかねないと思った。当然だ。

だが、今、ヤツは死んだ。殺しちまった。

情報はもう引き出しにくい。

こうなった以上、考えられる可能性は挙げておくべきだと思ってな」

『……ハァ』

アレハンドロの返事はこう、呆れたような驚いたようなもの。

「ヤツが……『アームズ』のメンバーだとしたらだ。

今まで、俺たちはヤツが使っていたモビルスーツからして、

脱走兵のバックにいるのが、大西洋連邦だと見ていたが……

もし、ヤツが『アームズ』なら、この前提は一気に覆る。

もし、そうだとしたら……俺たちの相手にしているものは。

……それはもう、ひとつの国とか、そんなレベルじゃない……

かもしれない。全く……悪夢みてぇな話だが」

『……んなこと、今言われても』

なんて小言を述べようとしたアレハンドロを遮ったのは、

思いもよらぬ、あの人物であった。

『……面白れぇじゃねぇか』

思わず瞠目した。

例の魚のヒレみたいなモヒカンを撫でながら、

舌なめずりする男の顔が容易に脳裏へ浮かんできた。

「……ルカーニア司令」

そこから先、俺が言葉に詰まっていると、

『内部より聞こえる音声からして、

第一陣は既に市街戦を展開しているものと思われます。

……完全に出遅れてしまいました。どうなさいます?』

そう、ダイが諭(さと)すのであった。

「……勿論、このまま『オバマ』へと向かう」

しかし、

『いいや……「フレイヤ」にはしばらく待機しておいてもらおう』

「……ハイ?」

『理由はテメェで考えろ。テメェなら分かるハズだ』

ルカーニアはこんな調子で答えをはぐらかす。

『……テメェならな』

妙に嬉しそうなルカーニアに、何となく不快感を覚えた…… 




さて、当の敵方はというと。
あの《ハイザック・カスタム》は、
今、高層ビルを座椅子代わりにして、腰かけている。
その両手には、あの大きなマシンガン。
いや、マシンガンというよりは、アサルトライフルというべきか。
ブラックライフルことM16小銃によく似た、
見れば見るほど大きなビームライフルである。
そんな《ハイザック》のコクピットには、
ろくすっぽノーマルスーツさえ着ないで座る初老の男。
口扇を振るって踊るジプシー女が描かれた、
青い正四角形型の箱より、白い一本のタバコを抜き出し、口へ。
もう片方の手には、クリッパー製の口紅のような縦長のライター。
ライターの先、紅の代わりに橙色の炎を灯し、
ゆっくりとこちらはこちらで口元へ寄せた。
そうして、歯と歯の間で固定したタバコの先端に、
この炎を灯せば、一瞬赤く染まって、それから黒ずむ。
次にライターの火を消す。
タバコを口に運んだ手で、今度はタバコを口から取り出す。
口から漏れ出す褐色の煙。
数秒、男の顔を覆った煙が晴れる頃、
その手は彼の顎を掻(か)いていた。
こう一服している彼へと、
『……ロコ・オツォ隊長。聞こえるますかね?』
との、ホルローギン・バータルの声が届く。
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