機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-13 新しき旗(4/7)

コルドバのローマ橋。

この白き石畳の橋の上、凍(こご)えるばかりの海風浴びて、

走る車は、銀色のセアト・アルハンブラ。

鼻の左脇に、ひよこ豆ほどに突き出たホクロを持った、

年の頃30か40というところのギリシャ人女性が運転する、

その車内にて、

ノエル・ド・ケグは物憂げに、開けた窓から外を見つめてた。

後部座席ではリョウ・ナラも、窓ガラス越しに外を見ていた。

いや、厳密には見ていたとはいえない。

前の座席から入ってくる激しい風に、

飛ばされぬようハンチングの先を押さえており、

その手とその帽子に目元を隠し、顔は外に向けながら、

しかし器用に目だけは、白金色した男の後頭部を見つめている。

まさか、気付かれていたとは思うまいて、

「……俺の顔に、何かついているか?」

なんてバックミラーを介して、ノエルに語りかけてこられては、

「ひぇっ」

と頓狂(とんきょう)な声を上げる他なかった。

運転手のギリシャ女が口に手をあて、声なく笑う。

ノエルは呆れた調子で、

「妙なヤツだ」

そう言い捨てると、口元より手を除けたばかりのギリシャ女へ、

「プレイアス……目的地まで、あとどのぐらいだ?」

との問いを投げかけるのだった。

「15分というところでしょうね。ランチタイムの心配ですか?」

「バカいえ」

「……それは失礼しました」

プレイアスなる、このギリシャ女が軽く頭を垂れるより先に、

ノエルは向き直り、また窓の外を見遣る。

しかし、風が強い。

普段なら片側に寄っているノエルの髪が、

捲(まく)り上げられ、オールバック気味に後方へと流れていく。

「その帽子……ドナウアーに貰ったのか?」

ノエルは振り返っていない。

だから、自分に言われたとは思わなかったのだろう。

そのとき、リョウは照れくさそうに頬を橙色に染めたまま、

ぼんやり遠方に横たわる地平線を眺めていたから。

「……オマエに聞いてんだよ。リョウ・ナラ」

トーンを落とし、鋭く小声で伝える一瞬、

ノエルがリョウの顔を見た。

慌てて少し肩を上げ、前を向いたリョウだったが、

そのときにはもう、ノエルの目は海の色に染まっていた。

「あぁ……これ、ですか?」

帽子をゆっくり取り、バックミラーに映るよう、

斜め前へと突き出すリョウ。

しかし、ノエルは我関せずといった様子で微動だにしない。

プレイアスは口角を左右へ広げ、

「……お人が悪い」

などと囁(ささや)くも、ノエルはうんざりとした様子であり、

振り返ろうとはしない。

このとき、光の加減もあり、元々クリーム色した女のホクロが、

おはじきに似た、何か半透明の球体に見えた。

「これは、違いますけど……」

構わないと言った調子にて、リョウが話を始める。

「……ネクタイを戴(いただ)きました。緑のネクタイを。

細いヤツです。古い映画……とかに、出てきそうな感じの」

「古い映画?」

呆れ気味に聞き返すノエル。

「もしかして……ウエスト・サイド物語のこと?」

微笑み返すプレイアス。

「それかもしれません……」

仏頂面で答えるリョウ。

「いい加減なヤツだな」

「まあ、そういうこともありますよ」

「……フン」

鼻を鳴らしたノエルの横顔を見つつ、リョウは問うのだ。

「ドナウアーさんには……気を許してらしたんですか?」

眉間を掻(か)くノエル。

「ここにオートクレール殿下はいらっしゃいません……

良いのでは?リョウくんには、話しても」

プレイアスの声は小さくなった。

「オートクレールが……いるかどうかの問題じゃない。

どんな関係かと聞かれれば…………答えに窮(きゅう)する。

兄だと呼ぶには年が遠い。父と呼ぶには親しすぎる」

「……お友だちですか?」

「いや……違うな」

両の眼(まなこ)に蓋をするノエル。

間もなく車の動きは止まり、風は止む。もう橋を過ぎていた。

「……終わったことを、いくら言っても始まらん。

アイツには息子がいる。ランドゥルフて、今年16になるガキが。

自分にもしものことがあったら、と……頼まれているからな。

引き立ててやるさ。俺に出来るのは、それだけだ」

そう語るノエルの横で、開いていたドアがピシャリと閉まり。

「着きましたよ。秘書官様」

「……ああ」

肘で押してドアを開けるノエルの背中を見ながら、

【お父様によく似ておいで】

だと、幾度も語ってきたフェルディナント・ドナウアーの顔を、

思い浮かべるリョウであった。

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