機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「……副艦長、副艦長」
耳へとかかる息が、彼女の意識を静かに覚醒させる。
「あぁ……眠り、かけていたのね……」
首を上げたハビエルは、それから1秒と経たぬうちに状況を理解した。
何せ、周囲の視線が彼女に集中していたから。
「眠りかける……というか、ねぇ……」
ハビエルの耳元へ、顔を寄せていたダスティン。
笑うと、鼻息が頬に触れる。
皆一様に怪訝(けげん)な表情を浮かべる中、
ヴァイデフェルトが真っ先に背を向けて、
「まあ……お忙しい中でしたし……」
なんてフォローを入れた。
ハビエルから見えたヴァイデフェルトの頬は、
うっすら赤みを帯びていたという。
笑いを堪(こら)えていたのだろう。
それから後、口に手を充(あ)てる仕種(しぐさ)まで確認できた。
「艦長ってのは……意外にすることがなかったりするし……な」
なんて逆のフォローを入れるダイは、
欠伸(あくび)が出たように口に手を押さえる素振りを見せたが、
結局、フフッという笑い声を漏らした。
「もう朝……交代時間ですから。
夢の続きは、ベッドでご覧ください」
そうハビエルの肩をポンポンと叩くと共に、
ダスティンは席の向きを変える。今度は笑いを隠しもしない。
さて、このときのハビエルの感想は、笑われて恥ずかしいよりも、
(ダスティン・ホーク……スキンシップ激しいな、おい)
だったとか。
「……とにかく、やっと休めるんだーって感じですね。
シフちゃんもお疲れ様ねぇ!」
背伸びをしたり、代理の副操舵手に目を向けたり、
ダスティンは忙(せわ)しなくもあり。
その点、このジェーン・シフなる少女は、
苦笑がちに一礼するだけに留めていた。
「そんじゃ……まあ……」
そう話し始めたことで、周囲の視線が再びハビエルに向いた。
当のハビエルは画面の端に映る時間を気にしていたが。
「……ここいらで」
と顔を上げるハビエルに、頷く。ただ一人を除いて、皆が。
その一人というのが、
「引き継ぎは……自分が」
このように声を出したゲルハルダス・ズワルトであって。
「あぁ……お願いね」
「はい」
ゲルハルダスが返答を返すより若干早く動いたダスティンは、
その返答が終わるより若干早く開いたドアより、
「じゃあ、皆、お疲れさまね」
とハビエルが言い終わるより若干早く出ていった。
「……アイツゥ~」
ハビエルの小言に、彼の部下たるシフが、
「悪気はないんですよ……小隊長は」
なんて宥める。
ダイ、ヴァイデフェルトも間もなく席を立った。
シフの「弁解」を聞きつつ、ハビエルも去っていく。
ブリッジに一人残されたゲルハルダス・ズワルトは、
その黒く、そして肩にかかる程長いドレッドヘアーの髪の下、
黒い肌と共に垣間見える、青い瞳を細めて、
画面を睨み付けていた。
それも、自身の座る席のモニターではなく、
先程までダイが腰掛けていた、索敵用のモニターを……
『どうですか?乗り心地は?』
のそんな部下の問いに、
「頗(すこぶ)る快調だ」
とクールカが答えたとき、彼を乗せたモビルスーツは、
リビアとチュニジアの国境付近を飛んでいた。
彼の機体は《アダガ》ではない。額に刻まれた「067 Павел」の文字。
白いボディと赤い装甲、節々には金の装飾を持っていた。
『でしたら、よいのですが……』
「むしろ私は、な……ドルゴン・ジンよ、
君の《ウィンダム》がそんなに飛ばしてガス欠にならないか、
そっちの方を心配しているくらいさ」
『いえ……その点は、大丈夫ですが……』
「……それこそよかった」
なんて話している彼らは雲の上。そんな彼の機体へ、
『所属不明機に次ぐ……こちらザフト』
と無線での呼びかけが来る。
『貴機は現在、領空を侵犯している。
……こちらの誘導に従い、速やかに離脱されたし』
クールカは何も答えない。勿論、離脱もしない。
ただ、両腿部に付随するホルスターへと手を伸ばすだけ。
『……聞こえているのか?』
返事はしない。その一方で、画面に映る敵としては捉えていた。
ロックオンはもう、している。
『これより、威嚇射撃に移る。
これは警告である。早急に離脱されよ』
相手の姿は、クールカには見えていない。
ただ、雲の切れ目からビームが飛んできた。
機体の動きに合わせて斜線上に撃ち込まれるビームに、
クールカの機体は微動だにしない。
分かっていたのだろう。相手が当てに来ないことを。
そして、当たらないことを。
『なんだ、コイツ』
相手がそんな声を漏らした直後、
男の機体はようやく、その右腕を上げた。
ホルスターから抜かれたのそれは、1丁のビームライフルだった。
声を上げる暇もなく、引かれた引き金に、
相手の機体はあっさり被弾。煙を巻き上げる。
そのまま、敵機は高度を下げていき、数十メートル下で爆発した。